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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 SHOPMASTER この春のスーツ!
そろそろ春めいた日が続くようになりましたが皆さんいかがお過ごしですか?
春になると転勤など異動シーズンですね。
新しい職場や勤務地で気持ちよく仕事始めをしたいから「スーツを新調!」などとスーツ需要も高まる時期です。
そんなこの時期に合わせるわけではありませんが私も人の子、やはりスーツを新調したくなりまして荒井君共々春夏で1着仕立てることにいたしました。

折角作るなら、紺屋の白袴ではいけませんのでそれなりに凝って...ということでこんなスーツを作ってみました!是非ご覧下さい。
荒井君のスーツ
う〜ん、いくら部下だからと言って前座に使ってはいけないのですが...
自分のスーツの紹介だけだとページが余ってしまうので、まずは荒井君のスーツからご紹介します。

基本デザイン
シングル3つボタン(中掛け)
>>今一番人気があるデザインですね。
ちょっと前まで流行った3つボタン上2つ掛け(3×2)よりはややVゾーンが広がって大人っぽい雰囲気でとても人気があります。
彼の年齢(30歳)にはバッチリではないでしょうか?

気になる生地は?
いくら若い荒井君だからと言ってこれが貧相な生地ではそれこそ『紺屋の白袴
でも、立場上私(東京SHOPMASTER)より良い生地を選べないし...ということでお値段は比較的お手頃ながらイタ物&高品質&トレンド色の強いFINTES社の濃紺ストライプにしました。
この生地はストライプの色が強く出るので、ちょっときつめにも見えますが、コレぐらいストライプが『立っている』方が今年風です。
サンプル帳をお持ちの方は是非G3013をチェックしてみて下さい。

特徴1  ゴージライン全体を上に上げてみました!
>>>ゴージラインを上げたハイゴージというのがかれこれ1年近くトレンドの主流になっていますが、実の所これはゴージライン(上襟と下襟の境目)の角度が上に上がっているということでした。
(ハイゴージについて詳細はこちらをご覧下さい。)
ところが昨今はゴージライン全体が上に上がる傾向があり、これまで当店ではこの『ゴージライン全体を上げること』が出来なかったのですが、今般工場との打ち合わせの成果でOKとなりました。
しかも5ミリ単位で指定ができ、これでお客さまのご要望をより満たせることになりそうです。
特徴2  カブラ付き
>>>これまで袖口につけるカブラは特殊な工場へ出さなければならなかったためこれを付けると「クラシコ仕様」との併用が出来なくなっていましたが、今般工場との打ち合わせの成果でOKとなりました!
そこで荒井君が実験台になって試作をしたのですがこれがなかなか好印象
本人も大満足のようです。
特徴3 パープルの裏地
>>>これは前からあった裏地(Z474-6)なのですが、パープルという一般的には受けの良くない色のため、あまり販売数量が伸びていない色でした。
それもそのはず、この色じゃ、普通の人は怖がりますよね...
そこで荒井君が自らこの裏地を使って、皆さんにアピールしてみました。
角台場でシャープさを出し、ポイントステッチやD管留めもパープルで統一すれば・・・どうですか!なかなかイケル裏仕立てになったでしょ!

私のスーツ
続きまして・・・いよいよ私のスーツの登場です。
今回は基本デザインはこれからちょっとトレンドになりそうな6つボタン2つ掛けのダブルブレストのスーツをゼニアの濃紺無地で仕立てました。

ここ1年少しずつダブルブレストの人気が出てきましたが、それもかつてバブルの時代のアルマーニのようにダブダブなソフトタイプのスーツではありません。
むしろ
 Vゾーンを高めにした
 ややハイウエストの
 かちっとした雰囲気のブリティッシュ調のスーツ
・・・が注目されています。ですので私としても流行先取りでこれにしました。

昔との違いは画像を見てもお分かりかと思いますが、どうですか?2人の私。
左の白っぽいスーツの方は4年前に仕立ててWeb用に3年前に撮った私の画像。昔風の4つボタン1つ掛けのダブルです。(スタッフ紹介の所やスーツスタイルあれこれに出ています)
で、右の濃紺が今回のダブル。
どうですか、当時より体重が推定5キロ太ってしまった私ですが、色合いが濃紺で引き締まるせいもありますが、6×2のダブルでウエストポイントが高くハッキングポケットでシャープにしているため、結構締まって見えませんか?
そして全体的なデザインはさておき、注目のディテールはというと今回の目玉は2つ!!
<その1・・本バス毛芯使用>
本バス毛芯とは胸・肩・襟の部分の芯地に本バス(ウマの尻尾の毛)を使用した物です。
通常の芯地は、既製服では廉価な接着芯をメインに、イージーオーダーの業界でも基本的には普通の毛芯に接着芯と併せて使用していますが、この本バス芯を使うと非常に張りがある芯地なだけに襟や肩がぴしっと仕上がるため、フルオーダー業界では人気の高いアイテムです。(もちろん既製服では本バスなどは絶無です。)
※注※ フルオーダーでも仕立屋の考え方やご注文のデザインイメージなどで本バス芯を使用しないケースは多々あります。念のため...

しかしながらこの本バス芯、お値段の方も結構お高く、私はこれまでイージーオーダーの縫製工場で本バスを使用できるところがあるなどとは夢にも思っていませんでした。
それが!先日いつもお世話になっている縫製工場の工場長が来られ、以前からお願いしていた本バス芯を使用することが少量なら可能と言うことになったのです!
これはお願いするしかない!ということで先ずは自分で試してみることにしました。

理論的には、ゼニアやロロピアーナのような高番手(SUPER120'sなど)&触感が柔らかい生地に対して、しっかりした本バス芯は 生地の柔らかさから来る『ふにゃふにゃ感』をなくし、かちっとした胸の立体感、襟のやわらかなロール感、そして何よりダブルの命であるピンと張ったピークドラペルが構成されるはず・・・
さてさて、どうなったでしょうか?
画像がその出来上がりですが、雰囲気お分かりになりますでしょうか?
ピンと張ったダブルの襟、そして襟のロール感。
襟のロールが無茶苦茶柔らかいにもかかわらず、ロール部を押してつぶして指を離すと・・・
あらっ不思議、綺麗にロール感が戻りました。
これが本バス芯ならではの張力・復元力です。
もちろん、表地にゼニアという最高級品を使っているせいもあるのでしょう何とも言えず綺麗に仕上がりました。

でもこれはなかなか画像だけでは良く解りませんね。
実店舗にしばらく飾っておきますのでどうぞご覧下さい。(4月中は東京店・5月は大阪店を予定)

補足 >>> 本バス芯の弱点
上述で本バスはさぞ高級な物...と受け止められた方も多いと思いますが、実の所弱点もあります。
最大の弱点は『固さが出る』ことです。
つまり概してイタリア物などの柔らかい生地で「ふわっ」とした印象を与えたい場合は本バスではなく普通の毛芯を使った方がBetterです。
今日の私のスーツはイタ物のゼニアですが、濃紺でフォーマル感が強く出るのでカチッとした仕上げにしたかったからこそ、本バス芯で仕立てたのです。

<その2・・手縫いのボタンホール>
あ〜っ、とうとうやることになったか〜。そんな声も聞こえてきそう!
そうです、憧れの手縫いボタンホールを先ずは自分のスーツで実験です。
とは言ってもここまで来るとイージーオーダー縫製工場にお願いするには無理があります。
ということで、この作業は何と!社内作業にすることといたしました。

それをする人は・・・というと、スタッフ紹介に新たに追加した当店が要するフルオーダー職人の白崎氏です。
彼は銀座高橋洋服店等で20年間針を持っていた人ですので素晴らしい技術の持ち主です。
そんな彼に私のスーツで左右の袖先のボタンホールだけを手付けでお願いしました。

画像をご覧頂いてどうですか〜??
一番袖先に近いところのボタンホールだけ手縫いなのですが、ハンドのボタンホールって意外と不格好でしょう...(白崎さん怒らないでね!!)
ブリオーニなんかでもそうなのですが、このある種の不格好さががハンドの特徴なんですよ!(機械的な造形美をお好きな方にはこれは理解不能でしょうね。)

さて、
話がちょっとそれてしまいますが、皆さん私がどうしてこんなハンドメイドの仕事をしようとしているかお分かりになりますでしょうか?
それは、実は最近007のスーツを調べていく過程でブリオーニを研究する機会があったのですが、その中でブリオーニ流の仕立て(マシーンメイドの中にハンドメイドの作業を増やし上質化していった)の流れが当社の求めるオーダースーツ像の行き着く先ではないかと考えるようになったためです。

確かにこれをやっていけば手間暇が今まで以上にかかり大変なのですが、オーダーというのはやはり上質的な物を絶えず求めていくものですから是が非でもチャレンジしてみたいと思ったのです。

今回ご紹介した本バス芯や手付けのボタンホールは、率直に申し上げて着るためだけのスーツとしての必要条件ではありません。
しかしながら自分が満足するスーツ、あるいは末永く愛することができるスーツとしてはひょっとすると必要条件になる人がいるかも知れません。
それ故この2アイテムは本当はスーツには不必要なものです。

ですが、私は当社の使命は営業的なことを無視した上で『お客さまに本当の良い物をご紹介する』 これが重要だと思っています。

実は、似たようなことを実店舗でも実践しています。
それはこの夏当店で初めて取り扱った「綿の王様=海島綿」のセールス(?)なのですが、
私はご来店になられた方のほとんどに海島綿をお見せしておりますが、その際には営業は絶対しないようにしています。
セールスするつもりは全くない・・・と前置きした上で...
「これが海島綿なんですよ〜デパートでは生地代だけで20万円ですよ〜」
「カシミヤよりも仕入値が高くて大変ですが、こんなものは普通の人には不必要ですよね〜」
「お客さまにご紹介するためだけに仕入れたんですよ・・・」
「ご覧になっていかがですか〜シルクみたいでしょう?」
「これを見た/触ったことがあるだけで結構自慢できますから是非触ってみてくださいね〜」
....と、まぁ〜こんな感じなのですが
重要なことは『お客さまにスーツの販売以外でいかに役立つことができるか』だと考えています。それが情報なのか、価格以上の出来映えのスーツなのか分かりませんが私はこう考えています。

商売っ気があるのか、ないのか分かりませんが、当店はこんな感じのお店です。