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 工場訪問記:葛利毛織
今月は趣向を変えて皆さんが毎日着ているスーツの生地を織っている機屋(はたや)さんについて紹介しましょう。

普通の人にとって、スーツはファッションであり、一番気になるのはそのシルエットやブランド、その次はスーツの色目などではないでしょうか。
でも、その先にはまだまだ奥があり、オーダースーツを好まれる方は体型に合っているか、とかお仕立の善し悪しが気になりますし、仕立てと共に生地の善し悪しも大切なことです。

そこで今月は愛知県一宮市にある葛利毛織さんへ工場訪問しましたのでそのレポートをご紹介したいと思います。

この葛利毛織さんは近いうち必ず!!(多分)ブレイクしますから皆さん絶対に覚えていて下さいね。(理由は後述します。)
それではまずは葛利毛織さんの概略からご紹介。

■ 葛利毛織とは・・・ ■
創業は明治時代中期、明治以降日本が洋装文化を取り入れ、これに呼応する形で愛知県一宮地方は日本有数の毛織物産地となりましたが、その初期段階で葛利毛織は生まれました。

大正、昭和と当社のような羅紗屋(生地屋)を介して国内のテーラー等に良質の生地を提供し、DOMINXの名で知られるようになりました。

その後(戦後)はテーラーの衰退と共にアパレル(既製品)業界へ販路を伸ばし、現在ではオーダー店のみならず、既製品の高級ゾーンにも商品提供をしているメーカーです。

代表的な納入先は、ポールスミス、アクアスキュータム、バーバリー、ランバンなど蒼々たるブランド。
テーラー業界でも銀座テーラーさんやオンダータなど、同社の名前は消費者に直接伝わらなくとも実は10〜20万円台のスーツの一角を担う技術力のあるメーカーです。

そして、その特徴は、、、
昨今最新鋭の高速織機が多い中、同社の特徴は非常にスロースピードの旧型織機を使っていること。 これが最大の特徴です。

その織機は、ションヘル織機といい、国内では殆ど使用されていない50年以上前の織機です。
当然の事ながらスピードが遅く、生産効率も著しく悪いですが、反面、遅いスピードで織るが故にじっくりと手間を掛けて織り上げるその素材は、一般的な国産生地では見当たらない綺麗な色使い、手間の掛かった生地作りをした服地となっています。

東京SHOPMASTERより一言・ ・ ・
 〜何故葛利毛織がブレイクすると断言できるの?〜 
断言というと語弊がありますが、私は長年の勘で来シーズンあたり同社がブレイクすると確信しています。
理由は3つ

1つ目の理由 ・・・ 原毛高ユーロ高
ご承知の通り昨今素材インフレが激しく、羊毛の原毛相場も高騰してきています。
加えて、インポート物の主たる決済通貨であるユーロやポンドは最高値圏です。
このような中、国内の有名ブランドやセレクトショップがどういう商品選択をしているかというと、
過去2〜3年は・・・ 例えばロロピアーナを従来使用していたブランドがよりコストの安いキャノニコを使ったり、という形で、売価に反映させずに為替や原毛価格によるコストアップ分を生地原価ダウンで吸収していました。
....が、近年はそれももはや限界に近づき、より安価に仕入れる為、素材の国産回帰が起き始めているのです。
しかしながら、従来上質感のあるインポート物を使っていたブランドがいきなり国産スタンダード商品に切り替わってしまうとさすがに消費者も質の劣化を感じるため、国産で技術力があり遜色なく、加えて色使いなどの自由度が高く、海外ブランドもこぞって使用する同社が選ばれるという訳です。

2つ目の理由 ・・・ 実際他社に真似の出来ない物を作っています。
これは生地を長年取り扱い毎日生地を切っている我々だからこそ分かることですが、実際同社の製品は非常にクオリティーが高いです。
今シーズン取り扱ったモヘヤ混素材も当社価格では53,000円ですが、百貨店に出れば10万前後で販売されるべきクオリティーです。

また小規模工場故に多様性もあり、ベーシックな素材から上はSuper180'SSuper200'Sまで織ることが出来るそうで、この辺もスロースピードな織機故に出来る所作ですね。

3つ目の理由 ・・・ 最近メディアでの採り上げが増えてきている。
いつの号か失念しましたがMEN'S EXをはじめ、ファッション誌各誌が葛利毛織とかションヘル織機とかの単語が増えてきています。
また、つい先日も業界の専門紙(繊研新聞)にも掲載されていましたし、訪問当日も三陽商会さんが見学にお見えになられていました。

■ それでは、工場を・・・ ■
□ 外見は・・・ □
外見は大したことありません。
ごくごく普通の田舎の(←失礼!!)工場です。

同社のある愛知県一宮市は地場産業が毛織物業で、長大毛織、中外毛織などなどあちこちに中小の機屋さんから大規模工場がある地域の一角にあります。
...とはいえ、昨今中国生産に大きくシフトしている中、大手工場は工場移転し、残った土地はゴルフ練習場スーパー銭湯になったり、廃業した零細機屋は跡地がアパート・マンションなってしまい、昔を知る人から見ると非常に寂しい地域となりました。
画像は入り口に立つメンズ仕入担当の一野君。

□ 歓待してくださったのは・・・ □
歓待してくださったのは同社社長の葛谷社長
非常に物腰の柔らかい実直な方で実は私の大先輩に当たる方です。
当日は何でも三陽商会さんも見学に来ていたそうでしたが先約の私を優先して下さいました。
画像は、同社の歴史を語る資料が眠る応接室で一緒に撮った写真です。
葛谷社長の腰の低さがお顔に表れているでしょ。

□ いざ!工場の中へ・・・ □
工場の中に入ってまず驚かされるのはその音
私は仕事柄何度も機屋さんへは行っておきますので、分かりますが、初めての人はまず驚かれると思います。
ガッチャン、ガッチャン、凄い音です。

< 糸巻き >
そして最初に見せて頂いたのは糸を巻くところ
仕入れた糸を織機で使えるようにまき直します。
動画で撮りましたからご覧下さい。
おばちゃんが一人、せわしなく動きながら茶色い円錐形の物を置いていますよね。
これに巻き直し、そこから織機の方に持っていきます。
この機械自体は大した音を発生しませんが、周りから入ってくる音の凄いこと凄いこと。
スピーカー付きPCで音声を聞かれた方は驚かれると思いますよ...

< 縦糸を通します。 >
続いてはいよいよ織機周りに入りますが、生地を織るときはまずは長〜い縦糸の用意をすることから始まります。
例えば、皆さんが普通に着ているストライプの柄は、ここで長〜い縦糸のから、例えば紺地のストライプ柄なら、縦糸濃紺30本に対し白糸2本を入れるなどと企画され下地が作られます。

それがこの工程です。
先ほどの動画で糸を巻き直しましたが、それで作った各色の糸をそれぞれを柄に合わせて集め生地幅と同じ150cmの幅にして、それを2反分 約100m分の長さを巨大なローター(動画の最後に出てくる物)に巻きます。
この状態は横糸がありませんから、丁度素麺を伸ばしているような状態です。
動画内では機械は動いていませんが、本来はグルグル糸をローターに巻き付けています。

< いよいよ織り始めます。>
ションヘル織機スロースピードで...というのはここでの作業を主として言います。
ここでは準備された縦糸に対して横糸を通し、ここで織り上げます。

そしてこの横糸を通す作業は、上下に縦糸をずらして隙間を作りながら(→画像内中央の木で出来た部分)
その間をシャトルという、昔の鰹節のような形をした物に横糸を絡め左右に飛ばして行きます。
(→画像内の右下〜左上の間を間断なく動いているのがシャトルです)

最新の高速織機ではこれをエアー(空気)で飛ばすためシャトルがあるのか無いのか分からない位のスピードで織り上げますが、ここでは織機の両端からハンマーで叩いて左右に飛ばしているため、そのためガッチャンコ、ガッチャンコとうるさい音を立てるのです。

少し脱線しますが、もし、縦糸がプチッと切れてしまった場合、これまた良くできた物で機械は自動的に止まります。(こういったことは多々起こり得ます。)

< 最後に検品を。 >
織り上がった反物は最後に検品をします。
どうやるかというと、画像のように生地をかざし、後ろから照明で強い光を当て生地に傷がないかを確認するのです。
ちょうど、真ん中の白い部分が裏から照明を当てる部分です。

ふ〜っ、紹介するだけでも大変ですが、ご覧になっていかがでしたか?
皆さんは生地を織る現場をご覧になることなど、ないと思いますのできっと新鮮にお感じになられたのではないでしょうか?
こんな所にまだまだ日本の伝統技術が残っています。

当社はこのような技術力があり、個性的で、真面目にコツコツ仕事をする会社が大好きです。
実際、工場見学の過程で、来春夏物で当社オリジナル企画の3プライのフレスコを織って頂くことを約束して頂きました。

海外ブランドも素晴らしいですが、読者の皆さんも是非こういった国内の伝統技術を忘れないでくださいね。

追伸:近いうち、葛利毛織特集を大阪店主催で行う予定です。