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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!
 「ありがとう」のない話題ですが... 
 今月はこれまでとちょっと雰囲気を変えて私の失敗談をご紹介してみたいと思います。...と、いうことで↑のようなタイトルを上げてみました。

どんなご注文(?)だったかというと・・・
今回のお客さまは札幌市にお住まいのMさん。学生時代応援団にいてこの6月にご結婚される方で、学生時代を彷彿させるような学ラン風のちょっと変わったオーダースーツ(フォーマル)を着たい!といったニーズの方でした。(以前ご紹介した竜虎裏地の元応援団の方とは別人です。)
一度サンプル請求の時に簡単なご相談をお受けしたっきり、そのままになっていましたがその後こんなメールを頂きました。

03.4.21
件名:札幌のMです。
返信が遅くなりました。申しわけありません。アドバイスありがとうございます。
(中略)
最初の相談を送信したときに、
サイトのフォームから送信させて頂いてますので原文がこちらに残っていないのですが『学生時代に応援団に所属していた』と書いていた様に記憶しています。

結婚式当日には、私の学生時代を知る友人も多く来てくれますので『ガクラン』をイメージさせつつ「カクテルドレス」に負けないお洒落なデザインが希望です。(笑
しかし、ただ詰め襟風にしただけでは面白くないのでなにか変わった仕掛けをしたいのですが・・・

添付ファイルが迷惑でなければ後ほど簡単なイラストなど描いてお送りしたいと思います
そのイラストを見て、これは可能、これは不可能、これは手間が掛かるので高額などまた色々アドバイスいただければと思います。

結婚式は6月6日ですのであまり時間がないと思います
決して(サイトで紹介されているような)わがままは言いません(笑
宜しくお願いいたします。 (札幌市 M)

★☆★SHOPMASTERより一言・・・★☆★
>『カクテルドレスに負けない!』『学ランをイメージさせる?』『変わった仕掛け?
×××...全然イメージが沸きません。
どうぞイラストを添付してください!とメールをお出ししたのですが。。。
なかなか返事が来ない。
初めは私もMさんのことを期日管理していたのですが、間にGWが入ったりとバタバタしている内に忘れてしまい、次にご連絡頂いたのは5月も中旬になってからでした。

03.5.14
件名:大変遅くなりました。元応援団のMです。
仕事の関係で一ヶ月ほど地方に行っていまして返信が大変遅れました、申しわけありません。
一ヶ月近くの時間が経ってしまいましたがこれからの注文・打ち合わせで、6月6日の披露宴に間に合うのでしょうか。

私としては、大変わがままだと思いますがヨシムラさんのところで作って頂くのが希望です。
体系的に好みの服がなかなか手に入らない状況にあり、無理難題を言う依頼者に対し親切丁寧に対応する様子をサイトで拝見させていただいてちょっと感激したところもあり他には考えていなかったもので・・・。

間に合うかどうかはわかりませんが一応、私の考えた希望案をイラストにしてみましたので添付させていただきます
是非是非、宜しくお願いします!(札幌市 M)

★☆★SHOPMASTERより一言・・・★☆★
イラストですがご覧になられどうですか〜?
かなり個性的というか、応援団的要素が随所に盛り込まれていますね。
襟なしの上着に、スタンドカラーのベスト...なかなか個性的ですが不思議とまとまっていてGoodです。
でも、イラストの仕様はこれまで試したことのないデザインだから工場とも事前に綿密に相談しないとな〜。
で、納期(結婚式)は・・・6/6!?
ギリギリなんとかなるか〜?でも札幌?提携店採寸だから採寸データの調整に日数が掛かるし、万が一ミスがあったときの事はどうする...う〜ん、う〜ん。...ということで悩みに悩みこんなお返事をいたしました。
03.5.14
件名:う〜ん、2つの意味で厳しいです。
Mさん
おはようございます。オーダースーツのヨシムラ(吉村)です。
昨夜は久し振りのメールを有り難うございました。
何でも1ヶ月も出張されていたとのこと、お仕事大変ですね。
さて、
ご依頼の件なのですが、画像を拝見しましたが今回は2つの意味でお仕立は困難です。

1.期日が迫っている
>>>通常3週間でお仕立はOKなのですが、結婚式用は万が一の大事をとってお直し1回分として1週間ほど余計に期間を頂いています。
今回はお直しの期間を除いてギリギリですので正直デザイン的なことを考えると難しいと言わざるを得ません。

2.デザイン的なこと
>>>非常に難しいデザインです。
ただ、時間を掛ければ出来ないことではないと思います。
が、期日を考えるとどうしても通常のお仕立期間以上がかかってしまうため失敗の許されない仕事ですからMさんを過度に期待させるわけにはいかずお断りせざるを得ないです。

通常のタキシード等のデザインですら期日的にはタイトなスケジュールですので大変申し訳ないのですが、今回はどうかお許し下さい。
歯切れの悪いメールとなりましたが早い段階で判断すべきと考え断腸の思いでご案内いたします。
よろしくお願いいたします。

オーダースーツのヨシムラ
SHOPMASTER_吉村_雅隆
★☆★SHOPMASTERより一言・・・★☆★
結婚式、しかもご自身が主役の結婚式でのスーツを当店で、と言われるのはお店としてはこんな光栄な事はありません。
何といっても一生の記念・記憶に残る一大イベントではないですか〜
それをウチのお店で...というのは金銭云々抜きにお役に立ちたいと思います。
... が、今回はダメでした。
あと1〜2週間あれば・・・そしてデザインがあそこまで奇抜でなければ...お受けできたかも知れません。
でも仕事の難易度不測の事態を考えるとどうしてもできませんでした。

ご参考までに上掲イラストのどこが難しいかを説明しますと...
1) 襟のないフロックコート風上着
>>>Vゾーンが狭く、一方で着丈がかなり長いフロックコート。通常はこれにノッチ襟かピーク襟が付きますが、それを「襟なし」とは・・・
襟は後から付けるだけ...とお思いかも知れませんが結構メンズでは型がなく難しい物です。
レディースならシャネルスーツで結構ありがちですが・・・
時間を掛ければ出来ないことはないと思うのですが、女工さんにこの意図を伝えるのに手間取りそうです。

2)スタンドカラーのベスト
>>>通常ベストはVゾーンがVかUの形をしている物が一般的ですがスタンドカラーのベストというのは聞いたことはありません。
とは言っても実は以前本コーナーでご紹介したSさんのスーツでこれに近い丸首ベストを仕立てていますのでこのデザインをうまく流用すればできそうな感じもします。(だからこそダブルで悔しい!)

すると、あきらめのつかないMさんからこんなメールが・・・

03.5.14
件名:Re:う〜ん、2つの意味で厳しいです。
メールありがとうございます
期間的にもデザイン的にも困難であるとの返答ですが、これは、「通常のタキシード等」に限った事なのでしょうか?
なにか妥協点を見つければ間に合うのでしょうか?
というのは、こんな理由なのですが・・・。

実は、今回の披露宴は「ハウスウェディング」の形式を採っています。
ホテルや大きな結婚式場で行うガチガチの『ザ!結婚式』ではなく、お客様を自分の家にお招きして小さなパーティーを行うような想定です。
ですから割りと衣装にも自由度があり、お客様は礼服を着ません。(同僚は皆、普段のスーツやジーパンで来ます)
新郎新婦もタキシードにドレスでなければならない理由もありません。
だからこそあのガクラン風コートを考えてみたのです。

> 1.期日が迫っている
> 通常3週間でお仕立はOKなのですが、結婚式用は万が一の大事をとってお直し1回分として1週間余計頂いています。
> 今回はお直しの期間を除いてギリギリですので正直デザイン的なことを考えると難しいと言わざるを得ません。


先述の通り、ガチガチに「結婚式用」と考える必要はありません。
(結婚式用だから直し期間を設けるのではなく、使用する日時が固定されているから設けているのだということは理解しています)

例えば上着に関して、実はこれに似たスーツを売っているところを知っています。(これを見て、襟がなければ〜と今回のを思いつきました)
これもちょっと面白い形ですのでこれを購入し、足りないのはベストとズボンです。
この2点のみの依頼でも難しいですか?

> 2.デザイン的なこと
> 非常に難しいデザインです。
> ただ、時間を掛ければ出来ないことではないと思います。
> が、期日を考えるとどうしても通常のお仕立期間以上がかかってしまうため失敗の許されない仕事ですからMさんを過度に期待させるわけにはいかずお断りせざるを得ないです。

上記のように、上着は別途購入・ベスト&ズボンのみの依頼であっても仕立て期間が足りないのでしょうか?

最悪の場合、
(その式場ではカジュアルな衣装のカップルもいる自由度という理由から)上着・ズボンを自分で用意するとして、ベストのみでもお願いできないでしょうか。
すこしファンキーな式を予定していますので、皆を「へぇ」といわせたいのです。
ベストだけでも珍しい形をしていればちょっと面白いと思いますので。
色を合わせたいのでズボンもご依頼したいのが本音ですが時間が無くなってしまったのはこちらの事情ですので無理にとは言いませんが、ヨシムラさんに惚れてしまった為なかなか諦めがつきません。
もう一度チャンスを下さい(ほとんどストーカー状態ですが...)。(札幌市 M)

★☆★SHOPMASTERより一言・・・★☆★
こういうのを本当の『断腸の思い』というのでしょうかね。。。
この仕事をやっていて無力感を感じる瞬間です。
現実問題、全勢力をMさんに傾ければ出来ないことはない(かも知れない)
でもMさんだけを特別扱いするわけには行きませんし、何よりリスクが多大です。
リスクを犯して失敗した場合、当社にはただの失敗かもしれませんがお客さまにとっては、「想い出の破壊」になりますので私とは重みが違います。
それ故今回はお断りせざるを得ませんでした。
そしてこんなお返事をすることに...
03.5.14
件名:リスクを犯してまでやるべきではありません。
Mさん
こんにちは、オーダースーツのヨシムラ(吉村)です。
昨夜のメールに早々にお返事いただき有り難うございました。

ちょっと私の言い方が悪かったようなので再度ご案内いたしますが
仮に普通のスーツでも今日オーダーが固まり採寸・お仕立をしても出来上がりが6/6なのです。
確かに急がせれば数日早く仕上げることは可能ではありますがそれでも万が一のリスク(お直しの可能性が出て本番までに間に合わない)ことを考えると得策とは思えません。
また、デザイン的なところについても、実の所
一番問題なのが詰め襟風のスタンドカラーのベストなのです。
それ故十分な検討の時間があれば出来ないこともないと思うのですが今の時点ではリスクの方が大きすぎ大変申し訳ないのですがお断りせざるを得ないのです。(つまりMさんと私ども、私どもと工場、それぞれに協議する時間が足りないのです。)

一生に一度の結婚式ですからもちろん私もご協力差し上げたいです。
でも、安易にご注文をお受けして、それにお応え出来なかったときのMさんのお顔を見たくないので、今回の件はどうぞお許し下さい。

もう一月早くデザインのご相談を頂ければこんなお返事はしなかったと思います。
できれば別の機会にご相談に乗せてください。よろしくお願いいたします。
オーダースーツのヨシムラ
SHOPMASTER_吉村_雅隆
★☆★SHOPMASTERより一言・・・★☆★
辛いですね・・・」思わず隣のデスクでメールをしている荒井君が同情してくれました。
責任ある仕事をしたいと思うのは大事ですがそれ故の葛藤もあります...
正直な気持ちをメールで書きましたのできっとMさんも理解してくれるだろうと思っていたところこんなメールが舞い込みました。

03.5.14
件名:ありがとうございました。
メールありがとうございます。

> ●仮に普通のスーツでも今日オーダーが固まり採寸・お仕立をしても出来上がりが6/6なのです。
・・・こうなってしまうとどうしようもないですね、妥協案などと言っている以前の問題ですね。
残念ですがあきらめます。
> 一月早くデザインのご相談を頂ければこんなお返事はしなかった

・・・仕事で一ヶ月の拘束時間が発生する前に実は2日間ほど比較的ヒマな日があったのです。
あの時にイラストを描いていれば・・・と、ただただ悔やむばかりです。
何度も丁寧なメールを頂き有り難く思っています。

ダメなものはダメなんだ、と早い段階で断る勇気

やはりサイトを拝見させていただいて感じたとおり誇りを持った筋金入りのプロなんだと感激しています。
お客さんのイメージを具現化するという意味では私の仕事もそうですから良くわかります。
また機会がありましたら宜しくお願いします。ありがとうございました。(札幌市 M)

★☆★SHOPMASTERより一言・・・★☆★
Mさん、ご期待に添えず本当に申し訳ありませんでした。
辛いですが、私は自信を持ってこの結論の方が良いと思います。
ところで、当店では今回のケースのように
検討をする時間が短すぎてご注文をお断りするケース や
こだわりが強いにも関わらず事前相談なく、いきなりご来店され、意志疎通がうまく出来なかった結果、仕上がりにご満足頂けないケース
 ...がたまに起こります。

これは、以前から思っていたことですが、本コーナーを通じ色んなお客さまをご紹介することの悪い影響として『いつ無理難題を言っても解決してくれる』的なイメージをWebが作り出してしまっていることに原因があるようです。
それ故、オーダースーツを仕立てる側の者として、本当に満足のいくスーツを作るというのはある部分ではお客さま自身もそれなりに負担を負って頂かなければ不可能なんだ!ということを折を見て一度申し上げたかったのです。

私は、自店が白い物を黒と言ったり、自分が出来ないことを出来ると言いたくありません。
そんなことを言ったらそれこそ無責任だと思います。
また自分たちは機械ではありません。また言われたことを忘れてしまうことも多々あります。
それ故、後から嫌な思いをしない為にはお互いが努力しなければならないことも多いのではないでしょうか。
今回のMさんにはご注文をお断りした上に、こんなアンチテーゼとしてのご登場を頂き本当に感謝しております。
でもこういった一つ一つの積み重ねが『より高い次元への一歩』となりますのでどうぞMさんをはじめ皆さんもご理解下さい。
 おまけ 
後日談ですが、MさんへWeb掲載の件でお願いをした後こんなメールを頂きました。いつかMさんから別のご注文を頂いた時にはもちろん「ありがとう」コーナー付きでご紹介したいと思います。
03.05.15 件名:私もホッとしております。(笑
メールありがとうございます
>ご理解いただき、ほっとするのと同時にちょっともの寂しさを感じてしまいました。
実は、正直なところ私もホッとしています。
頂いたメールの中に「結婚式の衣装は直し期間を一週間頂く」という文があったのですが、これで非常に葛藤していました。
というのも、私の上司の妹さんが衣装直しのプロなのです。
だから、ヨシムラさんには直し期間の一週間を考えずに作ってもらい、いざという時はその人に突貫で直して貰おうかと。
だとすれば一週間の余裕ができるから間に合うのかも知れない!
よっぽどそうメールに書こうかと思いましたが書けませんでした。

直しをする人間を自分で用意すれば一週間の余裕がでる、という私の思い。
プロとして直しまで面倒を見られないのは心外、であろうヨシムラさんのプロ意識。

サイトの「カナダからのメール」のOさんも書かれていますが『お店のポリシーに反する』という意識が、同じモノづくりのプロとしてのしかかっていました。

書いては消し、消しては書き、何度もメーラーを閉じました。
でも、断りのメールを読んだ今となっては書かなくて良かったと思っています。
書いていたらとても失礼なメールになっていたなぁと(笑
最後の悪あがきは上記の葛藤からなのでした(笑

丁寧なメール、プロとしての意識、後工程のスタッフへの気配り、断る勇気、色々と勉強させていただきました。ありがとうございます。

PS:Web掲載の件、全然構いません。
私の名前・住所などの個人情報や、もし画像も掲載する場合イラスト内の写真に写っている人間の顔、学校名などをわからないように処理していただければ問題ありません。
楽しみにしています。(札幌市 M)