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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!

 デフォルメ:〜○○風は難しい〜
9月も下旬になり朝夕秋風が心地良い、そんな時期になりましたが皆さんいかがお過ごしでしょうか?
9〜10月にかけては祝日も多く、ちょっとお洒落して外に出るにはピッタリの季節になりました。

当店でも気候を映してかそろそろ秋冬物のオーダーが増えて参りましたが今月はそんなご注文の中から「●●風スーツをデフォルメした物は出来ないか?」というご相談を受けたお客様を紹介したいと思います。

さて
この『●●風スーツ』ですが、これまでもいろいろありましたね。
一番多いのは『ポールスミス風』、これは何と言っても人気NO.1ですね。
そして次に多いのはこれから年末にかけて増える「永ちゃん(矢沢永吉)白スーツ
卑近な例では東京店山橋君の書いた「HACKETT風」なんかもあります。 ひょっとしてこれからは新進気鋭デザイナーのトムブラウン風なんてのもご依頼いただくかも知れません。

こういった皆さんは色々な事情でその物ズバリのスーツを買い求めることが出来ないため当店に相談されるのですが、その中でも例えばこんな事情の方もいらっしゃいます。
『●●はカッコイイけど、あそこまではやり過ぎだから、
 ビジネス用に少しデフォルメ(変形・縮小)したい』
例えば、それは上述のトムブラウンやオズワルドボーティングなどデザイナーとして尖ったブランドなどが多いですが、今回ご紹介する長崎のHさんは時代背景的に今とは全く異なる雰囲気の1930年代風スーツをデフォルメして!というご依頼でした。

それではどんなご注文だったのでしょうか?
その前に・・・

■□■ ちょっと一言 1930年代風スーツとは・・・ ■□■

1930年代風スーツ?!
当サイト内で以前紹介したのが暫く前のことでしたからここで改めてそのポイントをご紹介しますと、1930年代風スーツとはこんな感じのスタイルです。
  ご参考:過去のご紹介例 本格的1930年代風スーツ(ノッチ衿)
              1930年代風スーツ完成です!


□ 特 徴 □
1.上着は・・・
上着は衿が大きく、ウエストを極端に絞ったスタイル
また上着丈も短く、一番細いウエスト部から一番太いヒップ回りまでのラインが極端でそこを敢えて強調するスタイル。

2.ボトムは・・・
一方、ボトムの方はこれは上着と全く逆に非常に太いスタイル
また、股上も深くサスペンダー仕様が一般的。ベルトの帯や太い物が多い。

3.素材は・・・
1930年代スーツには生地を織る織機も今から見ればまだまだ洗練された物ではありませんでした。
このため用意できる生地は今で言うビンテージ生地。SUPER100'Sなんてトンデモナイ!という時代。
当然、ゴツゴツした触感で生地の目の粗く、しかも重い生地しかありませんでした。 しかしこれが逆に1930年代を語る上でも重要なファクターになっています。

こんな所が30'Sスタイル(←好きな人はこう言います!の簡単な紹介ですが、さてそんな中でHさんはどんなご相談を当店にされたのでしょうか?
ここからはHさんの個別のお話しをご紹介します。
(07.09.05 スーツのオーダーについて
お世話になります オーダースーツのヨシムラ様
長崎のHと申します。
このたびは、先日質問させていただきました生地(G7057)でスーツをオーダーさせていただきたくメールを出させていただきました。
スーツにつきましては、いろいろ勝手なお願いをさせていただき、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

仕様につきましては添付ファイルのとおりです。
   (以下添付ファイルの紹介)

1.ジャケットについて
このたびは襟の高さや形に特徴があるジャケットをオーダーさせていただきたく思っています。
シングル3つボタン ピークドラペル イメージは下の写真のような感じです。
・襟の高さはこのくらい
・襟幅はこれと通常のものの中間より若干広めくらい ←ここポイントです!(筆者注)
・胴の絞りは通常のブリティッシュタイプくらい ←ここポイントです!(筆者注)
 Aサイドベンツ   B袖口本切羽  C袖口4つボタン
 Dポケット 水平ふた付き  E右側チェンジポケット
 F総裏丸台場付き
 Gキュプラ裏地 Z530−F12 H袖裏地 Z526−3
 I総ステッチ
 Jフロントカットは上のストライプスーツ写真と同じくらいの形
 K肩のラインは無地のスーツ写真と同じような形
 ※ 現在着用している物を採寸サンプルとして送らせて頂きたいと思っています。

2.パンツについて
ツータック(アウトタック) A帯無し
B背割れ C腰裏にサスペンダーボタン付き
Dフロントボタン、1番上もフックでなくボタン止め(前に出るように)
Eポケット両玉斜め ?Fピスポケット片方クモフタ付き
Gダブル幅4.5cm
この下の写真を参考にお願いいたします。(あくまでもイメージです)

☆東京SHOPMASTERよりより一言・ ・ ・

本当は、、、Hさんから画像添付で頂いたのですが、実はそれが1930年代風スーツの有名なサイト(the30sStyleさん)からの転載だったため当サイト内では画像添付できずイラストでの紹介となります。
スミマセン。。。

画像をご覧になられていかがでしょうか?
昨今のトレンドはナロー(細身)スタイル。
シルエットとしての細身は30'Sも同様ですが、今風と大きく違うのは何と言ってもその「衿の大きさ」です。
う〜ん、インパクトありますね。
画像は先日別途ご注文いただいた東京店Kさんの1930年代風スーツ。

そこでHさんへはこの辺のポイントと共にどこまでHさんがこの画像(イラスト)に近づけられたいのかを聞いてみることにしました。
お返事は担当する大阪店が定休日だったこともあり東京店北君が行いました。(←最近私が休みでもフォローしてくれるので助かります。)
09.08.18 件名:お問い合せ有り難うございました。
Hさま
おはようございます。オーダースーツのヨシムラ(北)です。
今日は曇り空の為、幾分気温が低いようですがそれでも夏の暑さです。長崎の近辺はいかがでしょうか。
さて、夜分に当社ホームページよりお問い合わせをありがとうございました。

何でも添付頂いた画像のスーツを出来るか否かとのこと。
お話よく分かりました。

画像は、The 30's StyleさんのHPからの画像ですね、
当社でも過去にHさまと同ケースのご依頼でスーツをお仕立てしたことがございます。
参考URL:1930年代風スーツとは?

今回Hさまのご要望をお伺いいたしますと、全ての項目が必要条件でなければ、近いスーツがお仕立て出来るかと思います。
上記ページ内の画像をご覧頂き、お考え頂ければと存じます。

基本的には30'sさんのスーツは、ご存知の通りフルオーダーかと思われます。
添付画像は、肩先がかなりコンケープし、ウェストラインが極端に絞られておりますので画像に近づける為には、当社でのフルオーダーになろうかと思います。
因みに上述URLの当社HPのスーツはイージーオーダーにてお仕立ていたしました。

概ね近い雰囲気でOKでしたら、イージーオーダーでも出来ますのでご検討頂ければ何よりです
また、お話のニュアンスでは、過度に絞ることなく、肩先も盛り上がらなくて良いお考えのようですので、URLの画像を参考にご検討くださいませ。

それでは、引き続き何かございましたら、ご相談の程お待ちしております。
どうぞよろしくお願い申し上げます。お問い合わせありがとうございました。

オーダースーツのヨシムラ
オーダースーツ・シューズ担当 北 朋 広)

☆東京SHOPMASTERよりより一言・ ・ ・

ウン、北君ナイスレスをご苦労様。
さて、北君からの返信をお読みになられて納得された方いらっしゃいません?

そうです。
●●風といって画像添付して、そのまま全く同等にドンピシャな物を作られてもかえってやり過ぎで困ってしまう。 「これは行きすぎた例だけどちょっとこんな風に・・・」程度に理解して欲しいこと、ってありませんか?
Hさんは紙面の都合で十分ご紹介できませんが、頂いた他のメールからそんなニュアンスが伝わってきましたので、北君もその辺の説明を補足しなくては、、、と思ったのでしょう。

そりゃそうですよね、
今の時代1930年代風スーツをそのままじゃ、映画に出る訳ではありませんからかなり気負ってしまいます。
マニアでなければある程度デフォルメするのが常識的なことではないでしょうか?

そこで、Hさんへは私からもこんなご案内をすることにしました。
07.09.08 件名:ご連絡有り難うございました。
H様
おはようございます。オーダースーツのヨシムラ(吉村@東京)です。
関東では今日は台風一過の気持ち良く晴れ渡った朝となりましたが長崎の方はいかがでしょうか?
先日来大阪店南浦/東京店北がお世話になりまして有り難うございます。
今日は南浦がお休みを頂いていることもあり、代わりに東京店より吉村が代わりにご案内いたします。

さて、
Hさんは今回'30Sスタイルさんをご覧になられて、その雰囲気を少しデフォルメしたイメージのスーツをお求めとのこと、ありがとうございます。
仕様に付きましては先日南浦がご案内した通りでとのこと、了解しました。

そこで、仕様の方はこのまま進めても良いかと思うのですが実は昨日社内でH様のご相談内容を協議した結果、いくつかもう少しすり合わせをしたいことがありまして、サンプルスーツをお送り頂く前に下記の点についてお教え頂けないでしょうか?

1.〜仕上がりの雰囲気〜(ご確認下さい)
>>> 私自身30'Sさんのベースとなるお店(ドレーパーズベンチ)にも顔を出したことがあるのですが、あの雰囲気はスーツとしてはガチガチの生地を使った物が多いです。
実際1930年代というと生地を織る織機も今から見れば旧型揃いですから繊細な細番手の糸を織ると言うよりも、もっとザックリとした生地の風合い、弊社のサンプルで言うとスキャバル辺りのゴツイ雰囲気が'30スタイルには一番近い素材感と思います。
そこから考えますと、今回Hさんのお選びになった素材はカシミヤ混で柔らかく本来の1930年代風よりかなりソフトな印象になりますがよろしいでしょうか?

以前、東京店北よりご案内いたしました画像→では伊ロロピアーナ社製の物を使ったため、素材という点では純粋な30'Sの雰囲気にはちょっとそぐわないものでした。(その反省からのご案内です。)

また、↑のコメントを聞いて、できればもう少し堅い雰囲気を...というご希望でしたらお仕立てする際に「毛芯を厚めにしたり」「バス芯を入れる形でスーツの中から少し補強した方が良いかと思います。

2.お腹周りの絞り(ご確認下さい)
>>>先日来Hさんの方からも「お腹周りの絞りは30'Sの画像ほどではなくて・・・」とご指示いただいておりますが、この辺が非常に言葉だけでは難しい微妙なところです。
私共の一般的なオーダーでは、通常お腹周りのゆとりは「ボタンを留めて拳1つ入る位が適切」と言われていますが、30'Sスタイルさんはそのゆとりの半分以下でないとあそこまでのシルエットには なりません。

Hさんのご希望はどれ位でしょうか?
見本服をお送りいただく際には、見本服に対して第1ボタン周辺であとどれ位絞るかご指示いただけると助かります。
私見では、ボタンを留めて拳2/3位が現実的な落とし処かと思っています。いかがでしょうか?
※:この絞り具合ですと、内ポケットに2つ折りの財布などを入れると少し跡が浮き上がって見えるぐらいです。
この点は見栄えに大きく影響しますので申し訳ないのですがもう少し詳しくお教え頂けますか?。

3.衿巾について
>>>これまでの経緯では衿巾は30'Sスタイルさんと標準の中間ぐらいとのお話だったかと思いますが、
普通体型の方で30'Sスタイルさんでしたら10.5〜11.5cm位の衿巾
一方通常のシングルピークでは9.0センチ位ですから間を取ると9.5〜10.5cm位かと思います。
いかがでしょうか?
ちなみに衿巾の測り方が代わりにくいかと思いますので画像貼付して補足いたします。
簡単に作図したので分かりにくいかと思いますが、
 ・まずは衿の内側の線(ピンク線)に対して直角に見て
 ・ピンク○のところから
 ・ピーク衿のくびれた部分(黄色○)に接して
 ・衿の先端までの
  (※:飛び出た突端ではありません。あくまで垂直に計ります。)
 ・画像で言いますと青線の所を計ります。
これでどれ位がよろしいですか?
私見では中間ぐらいですと9.5センチで控えめ、10.0でちょっと30'Sの雰囲気かな?と思っています。
どうでしょうか?

4.パンツのシルエットについて
>>>これまでのやりとりを拝読しますとパンツのシルエットについてもう少し煮詰めた方が良いような気がします。
頂いた30'Sの世界ですと上着はタイトですが、ボトムは股上が深く、パンツその物もやや太めになります。
ズボンの裾の折り返し4.5などはGOODと思いますが、例えばパンツの裾口の太さなどどうしますか?

最近の細身のパンツは裾口が20センチなどという物も多いですがこの雰囲気ですと24.0センチ位が妥当かと思います。(もちろんHさんのご体型次第ですが...)

見本服をお送りいただく際はこの辺もご意見お聞かせ下さい。
色々と面倒なことを申しますが、良い物を作るべく頑張りますのでHさんもどうか忌憚のないご意見をお聞かせいただければ幸いです。

オーダースーツのヨシムラ
東京SHOPMASTER 吉 村 雅 隆

☆東京SHOPMASTERよりより一言・ ・ ・

さて、こうしてご案内した後、早速Hさんから見本服が届けられました。
送られて来たスーツは楽天でもお馴染みH菱社製のスーツ。
デザインはごくごくオーソドックスで、画像の通りとても30'Sスタイルの見本となるような物ではありませんでした。

『 う〜ん、、、これをベースに1930年代風か・・・ 』

H菱のスーツはかなり寸胴なシルエットだから、これからグッと絞らなくてはそれ風に見えないよ。。。
でも、どこまで絞れるかの判断となる採寸が今回は出来ないし。。。

話を伺うとHさんはご身長168cm、体重65kgで、少々メタボ気味とのことでした。
ですから、画像のようなシルエットもある程度は妥当な物なのだと思います。

でもお会いできない方のサイジングでこれを細身にするというのは非常に勇気の要る仕事です。
ご依頼は1930年代風をデフォルメした物ではありますが、だからといって小手先だけ少し絞るだけでは期待はずれでしょうし、、、

そこで自分たちの意識の中では見本服1930年代風とすれば中間の3ではなく2.5位を目指してご提案することに致しました。
具体的にはこんな感じです。
1.現状がかなり寸胴なシルエットであることに対し
>>> 身長・体重のプロフィールから絞りにも程度があるため、ギリギリで胴回り1周2〜3cm詰めることに。
2.袖幅を気持ち細く
>>> ウエストの絞りはウエスト自体の絶対的な細さで示す物ですが、意外なことですが袖幅を細めると袖と胴の間に隙間が生まれそれが細さを視覚的に強調します
今回のケースでは見本服の袖幅がもっさりと太かったため、細くしても実害無しと判断し、視覚効果を高めるため袖幅を細めることをご提案しました。

:画像はHさんの見本服をそのままボディーに着せた物と、脇・袖幅を軽く詰めた物を並べて掲載してみました。
腕と脇の隙間が視覚的に細さを印象付けるのがお分かりいただけると思います。
3.上着丈
>>> 1930年代風スーツは上述の通り上着丈が短い物が主流でしたが、見本服はご身長から考えると着丈が長過ぎでした。
不必要に長い着丈は「足の見える範囲」を狭めるため実際以上に短足に見せてしまいます
30'sは元々着丈が短いですから、そこで見本服より着丈を3cm短くすることにしました。

※:画像は先日同じように1930年代風(こちらはそのものズバリをご所望)を注文されたKさん
着丈の短さの参考までご登場いただきました。短いでしょ
Hさんではここまでやりません。

・・・と、まぁ、こんな感じでご注文を伺ったのですが、今回は誌面の関係で前部をご紹介しきれません。(原稿は長すぎると読むのも大変なのでA47〜8枚を限度にしてます)

さてさて
1930年代スーツをディフォルメしたスーツ、どんな感じに仕上がるでしょうか? それは来月ご紹介したいと思います。