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オーダースーツのヨシムラ
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 縫製工場を買収しました。
(05.08.31 東京SHOPMASTER:吉村 執筆)
この秋、当社では都内にあるフルオーダーの小規模縫製工場(有限会社三久服装)を買収し子会社化しました。
同社は、従業員こそ12〜13名と小規模ながら、創業の昭和46年以来 主に百貨店のオーダーサロンからのご注文(販売価格20〜40万円クラス)をお仕立てし、現在の工場長は英国屋系の縫製工場 株式会社英和にて20年以上勤務の上、同社工場長へ迎え入れられ、キャリア的にもノーベル賞受賞者の式典用燕尾服や歴代の総理大臣のスーツを仕立てたことのある程の実績の持ち主です。

そんな立派な(?)工場を今般 弊社にて買収することになりましたが、当社にとりましては祖父が明治に吉村羅紗店を創業して以来、120年に渡り 注文服に携わりつつも直接自社で縫製を行ってはおりませんでしたので、創業以来初めての大きな変革となりました。

そこで、ここでは読者の皆さん、特にリピーターの方を中心に日頃から懇意にされている皆様へ今般の買収の背景事情、そしてその狙いなどをご説明したいと思います。
若干、手前味噌な所もあろうかと思いますが、どうか前向きにご理解いただきたくお願いいたします。

■ 買収の背景 ■
1.以前から考えていたこと
当社は皆さんのおかげで「こだわりのオーダースーツ屋」としてご愛顧いただけるようになりましたが、その実情としては他のイージーオーダースーツ屋と比較すればレヴェルの高い仕立てでも、工場縫製では技術的に難しかったり、あるいは社外の縫製工場故にコストとのバランスでこだわりをお願いしきれない事が多々あり、しばしば歯がゆい思いをしておりました。

そしてこのような時に「いつかは自社で直接縫製をする道を...」という願望が生まれたのです。
しかしながら、今の時代に縫製工場を新設するなんて中国で行う以外は採算的に見合いませんし、何より当社には工場設立までのノウハウは残念ながらありませんでした。

2.話はひょんなところから...
そして、今般の買収話は某M&A専門会社からもたらされました。
そのM&A専門会社は、何でも大手イージーオーダー縫製工場数社に話を持ち込んでそれが流れた後、あきらめ気分でNETサーフィンをして当社を見つけたそうです。
やはり時代はインターネットの時代なのでしょうか。
そこから話はトントン拍子に進みました。

3.問題点が数多く・・・
企業買収では良くあることですが、今般買収した会社もとても問題の多い会社でした。
読者の皆さんにこれを公開するのは当社の信用力を落とすことになりますので良くないのでしょうが私は敢えて買収する同社の問題点をさらけ出し、お客様と共にこの会社を再建したいと思っております。

問題点1 〜 高 齢 化 〜
この会社の最大の問題点は高齢化です。
国内の手縫い職人はどこでもそうかもしれませんが、従業員12名で平均年齢65歳、しかも一番若い者が58歳ですから、正直言って後継者が育たない限り会社としてはあと5年の命です。

問題点2 〜 劣悪な給与水準 〜
ひょっとするとこちらの方こそ最大の問題かも知れません。
従業員の手前、直接的な金額を申し上げることはいたしませんが、賞与なし、歩合給の給与、給与絶対額も高卒男子の平均給与並
この給与水準は前経営者が倒産するか?給与引き下げか?の選択の中、切り下げられたのでしょうが、率直に言って、20年この仕事をしていてこれでは仕事を誇りとすることは出来ないと思います。

問題点3 〜 弱い営業力 〜
うまく業績が上がっていない縫製工場の多くはその低迷の原因が営業力のなさに起因していることが多々あります。
この会社もまたしかりで、従業員の高齢化ということもあるのでしょうが、主要取引先以外の販路を広げようという営業力が足りません。
技術力としては、某ノーベル賞学者の授賞式用燕尾服を仕立てたり、工場長の永年のキャリアでは総理大臣クラスの人のスーツを縫っている、そんな技術力・名声がありながら、いかんせん職人は口べたというか...営業力が足りません。
どなたか、全国の百貨店やオーダー店のお客様をご紹介いただけないでしょうか?

問題点4 〜 脆弱な財務 〜
とても悲しいことですが、永年の業績低迷で同社の財務は疲弊していて銀行借入も多く、当社が買収するときには事実上債務超過でした。
しかも粉飾決算をした形跡まであり、この会社の社会的な意義や価値を考えさせられました。

しかし、この点は当社が買収することで、増資こそ手続きが面倒なため行いませんが、当社からの資金援助により銀行借入は即刻全額返済することにいたしましたので、会社としての信用力は補うことが出来ました

■ 目的(狙い)は・・・? ■
さて、このように行き詰まりを見せている同社ですが、私は次のことを狙いに同社を再建したいと考えています。

目的(狙い)1 〜 当社とのコラボレーション効果 〜
本買収の目的の一番は、これによりお客様と当社そして工場それぞれに多大なメリットがあることです。
考えられるメリットには次のような事が挙げられます。

<当社にとってのメリット >
当社は皆さんのお陰でイージーオーダーの範疇の中ではかなりこだわった仕様をお受けし、縫製技術的にもそこそこのご信頼をユーザーの皆様から頂いていると思います。
しかしながら前述した通り既にイージーオーダーの技術的限界を迎えているのも事実で、これを仮縫い付きフルオーダーの取り扱いを開始することで解消したいと思います。

< 縫製工場のメリット >
被買収工場のメリットとしては、当社とコラボレートとすることで同社も従来の型紙(古臭いデザイン)からトレンドを取り入れた最新型紙へ生まれ変われますし、何より受注の安定が図れます。
工場とは概して縫うことばかり考えてトレンドやディテールへ日々意識が廻らないところがありますので、この辺はかなり改善できることと思います。

< お客様へのメリット >
最後に、これが一番大切なことと思いますがユーザーの皆様のメリットはたくさんあります。
価格的なこと、技術的なこと、コンサルティング的なこと、普通は知ることの出来ない工場を積極的に公開していくことetc...この辺は本稿末尾のお約束で詳述しますのでそちらをご覧下さい。

目的(狙い)2 〜 オーダースーツの知名度向上のため 〜
販売をしていてつくづく思いますが、消費者の皆さんの多くは「どうしてこの商品はこの値段なのか?」ということに無関心な方が多いと思います。
そうではなくて、単に値段が安ければそれで良いという発想が広く世の中に蔓延しています。
これでは国内のメーカーは中国やアジアの人件費の安いところには歯が立ちませんし、オーダー服は既製服に勝てません。

それではどうすれば良いか?
それは、物の良さをひたすら訴えることです。
今回工場を買収することで、Webでの紹介を含めて非常にやりやすくなりました。どうぞ楽しみにしていて下さい。
:画像は工場の1Fに無造作に掲げられていた社是(?)、紙の黄ばみ具合からも長年掲げられていたことが分かり、言葉の重みを感じさせます。

目的(狙い)3 〜 技術の継承 〜
当社ごときが大層なことをいうのはおこがましいのですが、やはりこれだけの技術を廃業に追い込むことはオーダーを愛する者として出来ませんでした。
国内縫製ならではの技術の灯を消さないために、頑張ります。

■ いくつかのお約束 ■
今回の買収にあたっては、お客様からどんな反響があるか分からなかったため事前にアンケートを行いました。

その結果は上図のように非常に好意的なものでしたがごく一部の方は「当社がフルオーダーをするのはふさわしくない」とご回答されました。
そして、このネガティブなご回答をされた方に直接真意を伺ったところ、
「当店がフルオーダーをすることで高級化路線へ進むのではないか?」
お手頃のオーダースーツが出来なくなるのではないか?」との懸念があるとのことでした。

きっとユーザーの皆さんも色んな不安があるのだと思います。
そこで今現在で分かる範囲で皆さんに次のお約束をいたします。

〜 約束1 〜37,000円のスーツも大切にします。
当社がフルオーダーを扱うようになっても当社は気軽にイージーオーダーを楽しんで頂く店というスタンスは変更しません。
フルオーダーは、何着も当社でオーダーされた方がとっておきの特別な時に3年、5年に一度だけご利用いただければそれで十分満足という位置付けです。
ご安心下さい。

〜 約束2 〜 適正価格に努めます。
問題点の所に記載いたしましたが財務が脆弱なため、適正な利潤を上げなくては営業し続けられませんが、それでもこの業界にありがちな相手の顔を見て値段を変えるような価格表示は決していたしませんし、フルオーダーは高いからと言っても百貨店等の業界標準と比べてかなり廉価な価格帯で販売いたします。
また、適正価格を徹底する施策の一つとしてシーズン料金制を実施します。
これは簡単に言えば、旅行がシーズンによってツアー料金が変わるのと同じように繁忙・閑散の状況によって工賃を変動させることです。
これにより工場は閑散期(8月)に工場がストップしないように、そして消費者の方はお手頃価格でフルオーダーにチャレンジできるフルオーダーの入り口のようにしたいと思います。

〜 約束3 〜 顔の見える縫製工場にします。
まずはWebに作業工程毎のスタッフを紹介し、作業の説明をいたします。
次にご注文に当たっては1着1着を工場長の責任で作業を進め、最終的には仕立て上がりのスーツと共に、お仕立て内容についてのレポートを提出します。

例えば、次のような内容です。
○○様
 (工場長吉井より・・・)
この度はご注文を有り難うございました。
お仕立てしたスーツをお納めするにあたりお仕立ての際私どもが特に注意したこと等についてご報告いたします。
○○様のスーツには次のようなことに注意の上お仕立ていたしました。

<素材的な要因>
  **********************************
<ご体型的な要因>
  ********************************
<季節的な要因>
  ******************************** など。

各作業担当者から>
・袖付け 担当:△△   ・肩入れ  担当:○○ ・見返し作り 担当:◎◎
・穴かがり担当:□□
  ・プレス  担当:■■  ・裁ち合わせ 担当:▲▲
・etc

その他、現状ではこれはアイデアですが、例えば
定期的に工場長や職人を当店へ呼び作業を実際にご覧いただく
  とか
閑散期に工場見学ツアーを企画する
...etc 顔の見える工場へ向けた施策を実施したいと思います。

■ お 願 い ■
最後に一つだけ読者の皆様へお願いがあります。
それは、今回の事を通じてお客様と工場・お店との関係』について一緒に考えていただきたいのです。

一般的にお客様とお店との関係は、ご注文を頂きその代わりに商品を引き渡すだけの関係で、その先の工場など消費者の方にとっては歯牙にも掛けないことと思います。
ですが、私どもが販売するオーダースーツには受注生産ですから金額では計り知れない商品に込める思いがあります。
既製品でしたら、先に物が仕上がっているだけにこのようなことは少ないかと思いますが、オーダー品特に個別のサイズを加減するオーダースーツではお客様への気持ちが仕上がりに大きく反映するのです。
それだけに、ご利用になる皆様にも工場のスタッフ一人一人が皆さんへ愛情を注いでいることをご理解いただきたいのです。

そして、読者の皆さんには是非ご自身がこの工場を経営している位のお気持ちでこの工場の面倒見て頂きたいのです。(将来的にはWeb上で決算報告することも必要かと考えています。)

私の申し上げていることは自らの経営手腕のなさをお客様に押し付けていることに他なりません。
ですが、私(オーダースーツのヨシムラ)の力だけではこの工場を磨いて光らせることはできませんし、この工場を光り輝かせるためには皆さんからの意見・批判が肝要で、そして何より皆さんから愛されることが必要なのです。
どうぞ末永くご愛顧いただければ幸いです。


※:画像は個別管理している型紙です。
オーダースーツのヨシムラ
有限会社三久服装
代表取締役 吉村雅隆
取締役工場長 吉井久勝
(※:9月中旬頃役員改選予定。)