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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 新商品:芯なし1枚仕立てデビュー
6月も中旬となり梅雨本番ですが皆さんいかがお過ごしですか?
毎日ジメジメ、ジトジト嫌な天気ですね、、、早くカラッとした夏空を拝みたいものです。

さてそんな時期ですが、読者の皆さんは当サイトで今年3月にご紹介した新着レポート(08.03ただ今試作品製作中その1)を覚えていらっしゃいますか?

 忘れてしまった方はこちらをどうぞ
    
 >>> 新着レポート(08.03ただ今試作品製作中その1)

この中で、
暑〜い夏を過ごすため 芯ナシ裏地ナシのナポリ風軽量ジャケットを試作いたしましたが、ようやくそのジャケットが完成しましたので皆さんにご紹介します。

話は長くなりますが実はこのジャケットには色々と紆余曲折がありまして、、、
こんな事があったんです。(一部は↑新着情報でも紹介しました。)

■ いきさつは・・・ ■
初めの経緯は、、、近々引退される某年輩テーラーさんが一枚仕立てのナポリ風ジャケットを得意としていて、その技術の火を消してしまうのは勿体ないので、是非私に1着仕立てて欲しい(=現物を後世に残したい)という所から始まり、、、
そのオーダーで、こんな芯ナシ裏なし一枚仕立てを仕立てて頂きました。
が!(大変申し上げにくいのですが...)
出来上がりがどうしても私の身体に上手くフィットしない×××

そこで、当社フルオーダー工場の吉井工場長にお願いしてお直しをして貰ったのですが、、、いかんせん、初めのパターンが今一つよろしくなくてどうにも上手く出来上がらなかったのです。

どんな所が合っていないのかというと、、、
画像のように右襟奥が浮いてしまっている所や袖幅が細すぎて格好良いのですが動作性が悪い所など、、、
そんなこんなで色々悩んでいると、工場の若手遠藤君がこのジャケットに興味を持って
私にも作らせてください!!ということになり、
もう1着新たにジャケットを作ることになりました。

工場としても従来のカチッとした英国風仕立ても大切ですが、これからはこういったイタリア的な軽い仕立てもラインナップに載せるべきと考えチャレンジしてみることに。

とはいえ、芯ナシ裏地ナシのジャケット作りは通常のスーツを仕立てるよりも数倍時間がかかり、しかも技術的には生地の遊びを芯地で抑えるものが、それが出来なくなりますから、当然 より高度な技術が必要になり、3月にWebで紹介してから丸々2ヶ月掛けての作品作りとなりました。

■ 製作の過程は・・・ ■
製作の過程を工場長や遠藤君に語らせたら、それこそ2ヶ月分タップリ時間が掛かってしまいますし、技術論は奥が深く分かりづらいですから、ここでの説明は割愛します。



■ そして仕上がったジャケットは・・・ ■
こうしてたった1枚のジャケットのために丸々2ヶ月の時間を掛けて仕立て上がったジャケットがこちら・・・

素材を紹介すると・・・ 生地は伊ロロピアーナ社製ブラウン無地
>>> 今年から来年にかけては、ライトグレイからベージュ、ブラウン辺りにトレンドが映っていきますのでそれを先取りしたチョコ茶のジャケット。
ブラウンが醸し出す柔らかな色目と、仕立てから来る柔らかい風合いが見事にマッチしています。

参考までにお値段は・・・
>>> ジャケット47,450円+40,000円(一枚仕立てフルオーダー)87,450円 と相成りました。(2ヶ月がかりで工賃4万では割に合いませんね。(^^;)

いかがでしょうか?
ボディーに着せると、少〜しお腹周りから裾にかけてヘロヘロしていますが、これは芯地ナシ裏地ナシということに起因していますが、実は技術のない縫製ですともっともっとヘロヘロになってしまいます。

またボディーに着せるとそのままでは肩パッドがない分どうしても肩が潰れてしまうため、撮影の際にはパットを内側に忍ばせての撮影となりました。
(このためボディーに着せると肩がしっかりしているような印象を与えますが、実際はもっとナチュラルです。)

う〜ん、、、、
オーダー物ですからボディーに着せるだけでは良く分かりません。
やはり、ここはご注文者に着用して頂かなくては真の良さが分かりません。
ではでは、、、

■ 実際の着用姿は・・・ ■
そこで満を持してご注文者の登場です。
とは言っても試作品ですから私ですけどね....

如何でしょうか?
正面からと横から見た画像を撮ってみました。

正面からの画像ではさすがに肩パッドを付けてない分、肩の傾斜はそのまま出てしまいますが、ネクタイを締め、ボトムも合わせるとビジネスでもバッチリですね。
契約事のような日には着れないかも知れませんが、超高級クールビズに最適ではないですか!
そして、横から袖を見た写真も、、、
普通のスーツではここまでスッキリ細く仕立てませんし、また細すぎて実用上支障がある程まで細くしていないのでちょうど良い感じです。

ちなみに、カジュアル感、モード感を出すため袖丈は長目にして、袖先を少しフレアにしてみました。

しかも、着心地は芯地も裏地も肩パッドもないためとても軽く、シャツを羽織っているかのようです。
だから・・・
ついついネクタイを外したくなってしまい....
こんなアフターファイブ姿になっても様になります!

加えて、定番グレイのパンツに限らず、ネイビーのコットンパンツだってコーディネートOK

ボトムがコットンでも似合ってしまうのはやはり芯ナシが醸し出す柔らかい雰囲気だからでしょうかね。
(ネクタイだけがちょっと堅かったので外しながらの画像で失礼!)

う〜ん、なかなかの物です。
(えっ?モデルが?!いえいえ、そんなこと申し上げません×××)

ジャケットで9万円ですから決して安い買い物ではありませんが、
作っている人の苦労も分かり、一発で気に入ってしまいました。


■ 加えてディテールは・・・? ■
最初のジャケット(某テーラーさん仕立て)では身体に合っていなかったこともさることながら実はディテールが気に入りませんでした。

どこが・・・というと内ポケットの玉縁の処理やスーツの裏側の閂処理など
そこで、遠藤仕立てではちょっと相談してこうしてみました。

内ポケットを松葉閂(かんぬき)で □

画像内、紺の方が某テーラー仕立て、ブラウンが遠藤仕立てですが、
紺(左)の方は角を三角に始末する南京玉縁という昔のテーラーさんが良く使っていた技法。
一方で、遠藤仕立て(右)揉み玉縁といってチケットポケットなどに良く作るやり方で玉縁を作りました。
両端の松葉閂(ベンツのマークのような部分)も目がきっちり詰まっていて隙がありません。

□ ポケット口の閂処理

またジャケットの閂処理ですが、これは好みが分かれるところですが、ジャケットの表側(アウトポケットの両端)は強度補強のため閂処理をしますが、一枚仕立て故どうしてもその始末が裏に出てしまいます。

これをどうしたら上手く目立たないように出来るか・・・
... ということで悩みに悩んで作ったのがコレ

えっ?何この丸いの?
と思われると思いますが、これは閂処理の上側をカバーするためのもの。
ここまで気を遣って仕立てて貰えると恐縮してしまいます。

またその横にある裏地を細長く横に貼ってある所。
これもまた重要な意味があるパーツです。
普通の方にはお分かり頂きにくいかと思いますが、普通上着は腰ポケットの切れ込みや胸のダーツを利用して、バストからウエストの落差(ドロップ差)をカバーし、あるいはお腹の丸みを包み込むように仕立てます。(マニュピレーション:通称マニプレといいます)
切れ込みは表側はポケットで見えなくなりますから良いのですが裏側は切れ込みがそのまま出てしまうのでこれを裏地でカバーしているという訳なのです。(このため、長方形型に裏地を使っていますがこれはあくまでカバーなのです。)

:仕立て方によってはこの裏地を横に貼るようなやり方をしないでも仕立てることは可能です。ただし体型にもよります。

究極は・・・
これはお客様のジャケットではこんな事はいたしません!という前提でご覧いただきたいのですが、今回のジャケットは色んな意味で工場にとっても試作品でした。

裏地芯地なしでどこまで軽く出来るか?というのを一番意識しましたが、それでも着心地が悪くなっては...と牽制する考えもありました。

特に気になったのは、細すぎる袖幅で、これが着心地にどう悪影響するかは仕立てる時点で判断が付きませんでした。

そ・こ・で・・・
何と左袖だけ袖裏を付けてみることに...
これなら着用時に比較が出来ます。

画像をご覧いただくとちょっとユニークというか変でしょ

でも、これは試作品だから許されることなのです。
我ながら奇妙な袖の仕立てだと思います。(*^_^*)
(結果としてはやはり袖裏を付けた方が滑りが良くこちらの方がオススメです。)

■ 出来上がりの行方は・・・ ■
さて、こうして仕上がったジャケットその後どうなるのでしょうか? すぐ私の物に?!
....いえいえ、残念ながらそうは行きません。
実は仕上がりましたジャケットは2〜3回私が試着してから、今度は某アパレルさんを経由して、百貨店のバイヤーさんにご覧いただいて貰えるよう、ただ今プレゼン中です。(工場も営業!営業です!

上手くご評価いただいて来年伊勢丹メンズ館なんかで販売できれば良いですね、、、

お店の方へはその後、改めて店頭に飾りますのでご興味のある方はその時に是非ご覧下さい。
(特に夏のフルオーダー閑散期シーズンには必ず展示したいと思っています。)

皆さんも、夏場はお洒落する必要はないから・・・何て言わず、ナポリ風の一枚仕立て如何ですか?
セレブのクールビズには最適な1枚ですよ。