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9月の「お客さまいらっしゃ〜い」:皆さんはマネしないでくださいね。 |
今月はこだわりのお客さまが多くどなたにご登場いただこうか、凄く悩みました。 が!やはりここは一番こだわった方にご登場いただこうと思いFさんをご紹介します。 Fさんはお仕事がパソコン関係教材で有名な某出版社にお勤めのため、何といっても仕事が細かい! イラスト貼付でメールがやってきました! 皆さんには「絶対に!」真似して欲しくはないのですが、久しぶりに強烈なご注文を頂きましたので早速ご紹介します。 ご紹介に先立って・・・ Fさんは実は昨年の10月に初めてメールを頂いてからようや今回初めてご注文になりましたのでちょっとそのこだわりようを前回から抜粋してみますと・・・(今回のご注文とは全く違う物です。) 初めてのご相談より抜粋・・・どんなこだわりの服をお求めか? ■第一位:秋冬物のコットンパンツ。 (チノクロスよりドレッシーな感じの、織り柄などがあるもの) 気に入った手持ちのパンツ (後身頃が"M"の字にハイウェストになっていて、外側にサスペンダーボタン付き)に似せて作りたい。 ■第二位:インバネスコート。 英国本来のインバネスには袖があり、かつケープが短いので、日本のトンビ風の、袖無しでケープの長い物が欲しい。 ■第三位:ウール、フランネルやツイードといった、厚手のジャケット。 フロックコートのように着丈が長く(とはいっても、普通のジャケット+10cmくらい)、しかも両脇のポケットの切り込みに沿って、ぐるっと身頃を一周した切り返しがあるもの(昔のスーツや、今でも礼装の服などはそうですよね)。 できれば、背中も4枚はぎになっていて、裾はスクエアカットになっているものがいい。 インバネスコート?フロックコート?普通の方にはイメージすら付かない物だと思います。 私も参考画像を用意することが出来ませんでした。m(_ _)m<br> |
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で、だんだん話が進んでいって、どんな生地を探しているかと言えば・・・ 僕が欲しいジャケット生地は・・・ ■つや消しの紡毛っぽい感じ、しかもフラノやメルトンのように、織り目が見えにくい(毛先がバラバラな)感じ(フェルト調といってもいいでしょう) ■色は濃い茶、あるいはチャコールグレーなどの、暗めの落ち着いた色 ■なにより、素材感は上記のものでありつつ、自分は暑がりな上、春秋にも着たいので、ごわごわしたのはイヤ、ペラペラでない程度に薄手なものがいい ■ということで、ウールとコットンの混紡の「ビエラ」素材などが実は一番お気に入り(今着ているイタリア素材のアンコンジャケットもそうです。 コーデュロイ風の畝(ウネ)がある、つや消しでざっくりとした生地です)です。 ■以上のことから、コットンだと、ごく細畝のコーデュロイが好きといったところです。 こんなの普通のテーラーでは絶対生地を探す事なんて出来ません。 そこで前回は当社のレディースの卸部門(婦人物オーダー店向け生地の卸売販売部門)に相談してレディースの生地で希望の生地を探してみました。 が・・・ご注文には至りませんでした。(残念!) |
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さて、前置きがいつになく長くなってしまいましたが、こんなFさんからのご注文は今回もメールだけで20通も頂きましたので残念ながら皆さんに全てのご紹介は出来ません。 そこで、要点だけご紹介しようと思います。 |
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私も自分は根が真面目な方だと思いますが、こんなイラストを送ってきたFさんのスーツに対する真面目な姿勢には感服しました。皆さんどう思います? 『5つボタンシングルジャケット?』『襟の返しは4つボタンと3つボタンの両方が出来るように?』『チェンジポケットが上ではなく並列?』『肩のラインをハの字?』 正直なところ当店の方もFさんに妥協いただかないとお仕立てのしようがないお手上げ状態でした。 (当店はフルオーダー対応はできませんのである程度の型紙の範囲内でのイージーオーダーです。このためフルオーダーでは技術的にできるものでも当店では出来ない物もあります。) 一度上のイラスト通りでは対応できない旨お伝えすると、すぐさま修正案(下のイラスト)がやって来ました。 |
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Fさんの思い入れは痛いほど分かるのですが、分かれば分かるほど『思い入れが強すぎる』あまり私たちもお客さまに過度な期待を持たせる訳にも行かず、腰が引けてしまい、期待が募るFさんとそれを怖れる当社との溝が深くなってしまって・・・ とうとう私も業を煮やしこんな失礼なメールを差し上げてしまいました。 |
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件名:無理です! | |
Fさん ご連絡ありがとうございます。 色々と検討いたしましたがFさんのご意見はごもっともな部分が多いのですが結論から申し上げますと以下の理由で当店での対応は無理です。 またお気を悪くして頂きたくないのですが、多分Fさんのご要望はどこのテーラーでも対応は出来ないと思いますので何とぞご理解下さい。 ○スーツのお仕立ては平面ではありませんので平面図を持ってこられても出来るか出来ないかの判断はつきません。 (というより平面図をベースにお話しされても実際の出来上がりは必ず違いますので怖くてお仕立てができません。) ・・・正直申し上げてFさんのご要望は工場やフルオーダー職人等の針を持つ人間に直接お話をされない限りは無理です。 またFさんのご要望は本来パターンナーがする仕事ですのでそこまでの専門知識がFさんの方にもないと無理です。 では具体的にどうかというと・・・ 例えば、通常の4つボタンでフラワーホールと第一ボタンの間にボタンホールをつけて・・・とのご希望がありますが、そもそもフラワーホールとボタンホールは大きさも縫い方も違いますので単純にそれを並列にはできません。 また間につけるボタンホールも物理的にどう考えても襟のロールに引っかかります。 その他にも・・・ 襟の返りの加減は生地によってかなりのばらつきがありますので生地が決まっていない中でのこのお話はここまで細かいと無理があります。 Yシャツ地のようなペラペラなものでしたらまだ良いですがスーツ地はそこそこの厚さがありますし、素材の違い、またクリーニング前後のウールの復元力にも左右されますのでどうしても無理です。 また 3つボタンの中1つ掛けというのは、そのデザインを前提にした物でなければ、「ある時は3つボタン、ある時は段返り」という使用方法は必ず襟の芯に無理がきますので芯地の剥離の原因になります。 Fさんのイメージしている物は雑誌等で既製服をスタイルの良い(概して胸囲がある)モデルさんに着せる際に、身体にあってないからしかたなく3つボタン(上2つ掛け)を段返り風に中1つ掛けに着て見せているだけであって、それがスーツにとって望ましいことではありません。 ですから出来上がったスーツをそれこそ数回の使用でご満足されるなら良いのですが、1回クリーニングに出したら3つボタンとしてプレスをすれば段返りの後が徐々に立ってきますし、逆に段返りとしてプレスしたら第1ボタンと第2ボタンの間数センチが妙な襟の立ち上がり方になります。 この様なスーツをお仕立てになられるのは初めは良いかも知れませんが責任ある仕事ができませんので当店ではお受けできません。 ところで余談ですが、これは大変酷い言葉でショックを受けました。 (以下Fさんのメールよりコピー) >なるほど、そうですか。 >てっきり、肩線のところのカッティングを、前身頃・後身頃ともに角度を変えるだけで対応可能、と思ったのですが。 >いわゆるパターンオーダーのCADではこうした変更は考えられていないのですね。 >残念ですが、これはあきらめます。 我々はジャンルで言いますとイージーオーダーのジャンルです。 パターンオーダーというのは既製服に限りなく近いオーダーですので「イージー」より選択肢は少なく決められたパターンのなかでディテールだけを変更する。 (例えば本切羽にする、重ねボタンにする等の変更)しか出来ず、極論を言えば襟幅を変えることも、ボタンの位置を変えることさえもできません。 こういう点ではパターンオーダーというのは「オーダー」が付くのは名ばかりで基本的には既製服なのです。 この点ではFさんは我々の業界を誤解されています。 イージーオーダーの工場で基本パターンを変える(増やす)と言うことは大変な費用と時間のかかる仕事です。 最近のCAD等の操作が簡単なのはよく分かりますが、机上の論理と縫製の現場をすぐつなげることはできません。 何とぞご理解下さい。 オーダースーツのヨシムラ 吉村株式会社 SHOPMASTER_吉村_雅隆 |
☆★☆ SHOPMASTERより一言・・・ | |
あ〜ぁ、言いたいこと言っちゃった。 これでFさんは終わりだ・・・と少々反省していると、すぐさまこんなメールが・・・ |
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件名:むむむ、失礼ながら闘志が沸いてきました。 | |
(前略) …しかし、現実は私が考えていたほど甘くないようですね。 というより、私が勝手にイージーオーダーについて幻想を抱いていたようです。 これは、御社を責めるのではなく、勝手に自分が夢想していたという事実を、自戒の念を持って反省しているとお考え下さい。 わがまま、とは存じ上げつつも、いつも御社のWebを拝見するたびに、いろいろ消費者のわがままを聞いていただけるのかと錯覚してしまっていましたが、この度強い叱咤の言葉をお聞きして、ショックを受けると同時に、「客だから何でも言っていいや」という甘えが自分の中にもあった、と反省しています。 頂いたメールの最後にあった、 > 最近のCAD等の操作が簡単なのはよく分かりますが、 > 机上の論理と縫製の現場をすぐつなげることはできません。 という言葉、身に沁みます。 なぜなら、僕も出版のはしくれとして、書籍を作っていますが、不幸にも(?)書籍の編集のみならず、実際のDTPもできるので、実際のDTPをやることもままありまして、上司に「これくらいすぐできるでしょ? 大して変更する箇所もないし」と言われ、実際の現場の作業としては「実は言葉では簡単なその変更が、現場の作業的にはひどく困難で多くの手数を踏まなくてはならない」などということもあります。 そんなときは、「なにも現場のことを知らずに、簡単そうに言うなっ!!」と思ったりしていたのですが…ついその気持ちを忘れていました。 すみません。客、という立場で甘えていたため、なんでも言ってOK、という錯覚に陥っていました。 「何ができるか、できないか」という考えで、こちらのお願いをすべきだったと反省しています。 |
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う〜ん!Fさん・・・憎めない方です。私言い過ぎました(反省) と訳でその後Fさんとは仲直りしてまたメールでのやりとりが復活しました。 Fさんにもある程度妥協して頂いた上でご注文いただいたスーツ! さてさて、どんなスーツが出来るやら・・・ 今回は紙面の関係で「オーダーの詳細」を皆さんにご紹介できませんでしたが、次回の「お客さまありがとう」コーナーで私の苦しみ抜いた作品をご覧頂きたいと思います。 『チェンジポケットの並列』できるかな〜? |