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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!
 (大阪編)こういうこだわりもあります 
秋も段々と深まり日の落ちるのも早くなりますと、なぜか人恋しくなるのは年のせいかも知れません。
秋はもの思う季節とは今も昔も変わらないようで、過ぎ去りしあの青春の日々が思い出されるのもこんな季節と、柄にもなくカッコを付けてみたくなります。(笑)
...と、前振りが長くなりましたのは、そんな若かかりし頃の青春のシンボルと言うべきスタイルにこだわったお客様、Tさんを今回ご紹介してみたいと思ったからです。

それでは、先ず最初にTさんから頂いたメールからご紹介します。。
04.08.09  件名:ご質問
はじめてご連絡させていただきます、Tと申します。
スーツのオーダーをしようと考えているのですが、私の希望をまとめてみましたのでそのようなスーツが御社で製作可能かご検討いただけませんでしょうか?

スーツ上着は特に問題ないと思いますが、ズボンは帯なしの昔履いていたような変形学生服がベースです。
(添付資料内の写真は学生服そのままですが、もちろん生地はスーツ上着と同じものを使用していただこうと思っています)

スーツのイメージは昭和レトロ愚連隊クレージーキャッツといったところです。
昔よく見た『 不良・チンピラ 』のディティールを再現しようと思っております。


もし製作可能でしたらおおよその価格をお教えいただけますでしょうか?
(生地によって価格は違うと思いますがおおよそで結構です)(レトロっぽい色・生地希望)
以上、よろしくお願いいたします。(兵庫県 T)
そして、メールと共に送られてきたのは、以下の画像です。
まず最初に上着を見た時の印象ですが「昔見た仕立屋さんのホコリのかぶったショーウインドウにこういう形で飾られていたな〜」という記憶が頭によぎりました。
失礼な言い方でスイマセン。。。)
色の雰囲気といい、スタイルといい、あの当時の日活映画を思い出させるような30年代のレトロっぽい雰囲気です。

次にパンツですが、パンツと呼ぶよりズボンと呼ぶのがふさわしいですね。
こちらも古いオーダーの香りのする仕立て方と見ました。
具体的には...
帯と呼ばれるベルトの下に隠れる部分が、切り替えではなく一枚生地で続いている
ループも一番上ではなく最上部から数センチ下がって付けられている。
そしてピスポケットのフタも今ではあまり見かけない変形タイプです。
★☆★大阪SHOPMASTERより一言・・・★☆★
いずれもデザインとしては別段差し支えはありませんが、個々のディティールというよりは全体の雰囲気をレトロっぽくとのご希望なのでしょう。
色柄も出来るだけその当時をイメージできる物をとのご希望のようで、デザインはOKですとのご返事を差し上げました。

私も昭和30年代のファッションまでは自信はありませんが、ところで今時どこでこんな上着の画像を手に入れられたのか、そっちの方が個人的には興味を引きました。
Tさん果たしておいくつでしょうか?
愚連隊とは今や死語ですが、昔は少々悪さもしたモンですよと当時を懐かしむ白髪の紳士かな?
興味は尽きぬままにTさんにお会いできる日をお待ちしました。

そしてある日のこと、『以前メールさせて頂いたTですが...』と突然ご来店されました。
エッ!?あなたがあのTさんですか!!』と私はビックリ!!

てっきりご年輩の方とばかり思っていましたが、Tさんは年の頃なら30代半ばの若々しい方でした。
ひとしきり話しを伺うと、昭和30年代というよりは学生時代に馴染んだ学生服仕様をなんとかスーツに取り入れたいとのご希望のようでした。
★☆★ちょっと一言・・・昭和30年代のファッションは?★☆★
私なりにその当時のファッションを色々と調べてみたのですが、基本的にはこのようなスタイルです。
ウエストシェイプはなくズンドウ型
衿巾が広く前ボタンは2ツボタン
上着丈袖丈も長い
2タックで全体が下まで太くユッタリとしたシルエット
ちなみに当時の前立てはボタンです。
おまけに夏になれば襟元は開襟シャツでネクタイ無しというスタイルですが、当時はファッションという概念はあまり無かったようですね。
以上が、昭和30年代頃をイメージさせるスタイルですが、その辺も含めTさんのご希望を要約しますと次の通りです。
(Tさんはご職業が営業職です、そこでこだわりもありますがやはりビジネスに着られるのが大前提です。)

上着
>>>外側のデザインはオーソドックスなスタイルで、絞りは少な目に3つボタンの段返り。
上着のデザインについては特に難しいこともなかったのですが、さて問題は裏地です。
ご希望は虎や竜の刺繍入りでガクランを彷彿させるイメージです。

パンツ
>>>基本はボンタンです。
< 解説 >ボンタンとは、ワタリ幅つまりモモ幅が極端に広く、裾にゆくに従って細くなるデザインのズボンです。
発生年度は不明ですが、不良クンに愛されすたることなく今に生き続けるトラディショナルスタイルです。
語源も不明ですが、類語にドカン、短ラン,長ランと学校内着用禁止、職員室呼び出しのアイテムがあります。
具体的にはワタリ巾は3タックにするため通常より太く、裾幅は狭く帯はなし。
そして結構ポイントなのがループ下がりと言ってループの上より何cmパンツの上部がはみ出すかです。
またループは画像通りのX仕様以外に、ダブルループや幅広ループなどひねりワザもあり、こだわりのポイントのようです。
★☆★大阪SHOPMASTERより一言・・・★☆★
上着の裏地が竜や虎で、パンツがボンタン仕様でビジネスに大丈夫?
ここがTさん究極の思案のしどころでした。
これで営業はOKですか?清水さんのご意見は?と、Tさん仕様書を前に一人では決めかねるご様子です。
それにしても、ボンタンやらドカンやらあるもんですね〜。
私は残念ながら学生時代はボンタンとは無縁で、硬派でもなく軟派でもなくの中途半ぱでしたから、Tさんのこだわりもあいにく共感湧かずに、アドバイスらしい事も出来ずでスイマセン...

...ということで悩まれた挙げ句 最終的な結論が出ず、採寸を終えてもう一度出直して考えるとのことです。
そして日をおいて再度のご来店された結果、生地も含めひとまず以下のようにTさんは決断されました。

生地・・・G7135 ロロピアーナ茶系ストライプ
>>>ロロピアーナのシックな茶色は、地模様に伝統的な杉綾も入り秋冬の人気商品です。

デザイン生地
3ボタン段返り
>>>ややクラシックさも感じさせる、昔から引き継がれているるタイプです。
クラシコ仕様  サイドベンツ
袖ボタンホールの一番下赤色に色替え
裏地はZ509-1ワイン地に黄色と黒のストライプ

>>>竜か虎模様か?はたまたこれかと苦悩の末、営業用にはやはり地味目!なこのタイプでとの決断でした。
ネームは漢字縦書き

 >>>おまけに刺繍糸は紫色で出来るだけ太くと、ガクランを彷彿するこだわりです。
ボンタン仕様

>>>タックは3本、帯はなし、ループ下がり1.5センチ、Vカット付きで後ろループはX仕様。
そしてパンツのシルエットを決める重要なポイントのワタリ幅ですがTさんの場合、サイズは普通に仕立ててもこんな感じになります。
ヒップ100cmの場合の渡り幅
ノータック
34.0cm
1本タック
35.0cm
2本タック
35.5cm
3本タック
38.5cm
ということで、太股部分のワタリ巾が38.5cm、そしてズボンの裾口はなんと21.0cmと急降下。太股から裾がきゅ〜っと絞られたボンタンが甦りました。

最初のメールを頂いてから2ヶ月あまり、ようやくボンタンスーツの仕上がりです。
★☆★大阪SHOPMASTERより一言・・・★☆★
あれだけ悩まれたTさん、試着していただき感無量の面もちでした。
昔の思い出も共に蘇ったようで、懐かしいなぁ〜とひとしきりスーツを眺めてボンタンの着心地を楽しんで頂けました。
しかし、知らない人が見たら結構インパクト強そうです。
営業で大丈夫ですか、Tさん?
いざとなったらいつでも細く出来ますので、遠慮なくお申し出下さい。