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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!

 殿中でござる!
読者の皆さん、明けましておめでとうございます。
お正月もダラダラ過ごしているとアッという間に過ぎてしまいますが皆さんは如何お過ごしでしたか?
気持ち新たに、仕事に、学業に、生活にと誓いを立てられた方も多いと思います。

さて
そんな年始第1回目のお客様いらっしゃ〜いコーナーでは、お正月らしく?ちょっと変わった話題を読者の皆さんにご提供しようと思います。

思えばインターネット上でのこの仕事は今年で丸10年経ちますが、色んな形でお客様を幅広くご紹介しようと考え作った本コーナーもお客様の傾向を大きく分けると3つに分かれているような気がします。
 少し脱線しますが、お客様の傾向がどんな形かというと・・・

 1) ファッションとして自分の好みを反映させたスーツが欲しい方。
 2) もう一つは、自分の身体にフィットしたスーツが欲しい方。
 3) そして最後は、人とは違う何かが欲しい 方。

もちろん、お客様のご要望はそのどれかというのではなくこの3つの複合体なのですが、
今回ご紹介するお客様は正直私、初めてこんな方にお会いしました。

  3)だけ の方なのです!!!

今回タイトルで付けた「殿中でござる」というのはそれがそのまま今回のご注文ではないのですが、次のオーダーではパンツをサスペンダー(?)付きにして、そのサスペンダーをあたかも裃(かみしも:遠山の金さんが着ているような肩先が尖っている衣装)の様ににしたいというのを真顔で言ってのけるお客様なんです。
(多分、今回のご注文がちゃんと納まれば次こそ、“殿中でござる”のご注文になります。)

ですから、今月のお客様いらっしゃ〜いは他の方には決して真似をして頂きたくない内容になっていますが、年始らしく笑って頂ける話題としてご覧ください。

さて
そのお客様(Yさん)についてご紹介すると、
Yさんの外見は.... ちょっと強面の方ですが、実態は矢沢永吉世代の昔(今も?)、かなりやんちゃをした系の方です。
当店とのおつき合いは、実は今回のご注文が初めてで、多分他のスタッフですと腰が引けてしまうような迫力のある方でした。。。
(う〜ん、、、全然誉めていない×××。Yさん読んでも怒らないでくださいね。)

そんな方が、暮れも押し迫った12/26にお越しになられました。
ご新規のお客様でしたから普通に対応して、ご相談を伺うと...
なんと!この生地を裏地にして仕立てられないか?とのことでした。
ここまででしたら、何だ前置きの割に裏地の持ち込みだけかい?と思われるかも知れませんが、その裏地がこちら!!
  じゃじゃ〜ん >>>
以前、龍虎裏地は何度かホームページ上でもご紹介しましたが、あの時の物でも単純なプリント物ではなくジャカード織のそれなりのクオリティーの物でしたが、今回Yさんがお持ちになったのは、何と金糸銀糸をタップリ使ったこんな龍虎裏地でした...
画像は以前ご紹介したことのある従来の龍虎裏地

 うわっ、すげぇっっ!!
ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、こういった金糸銀糸を使った生地というのは、(よく考えれば当たり前ですが)中に金属が入っていますからソフトな触感には絶対なりません
ゴワゴワというより、何というのか、パキパキするというか、とても着心地を求められる物ではないのです。
(この辺、画像だけでは紹介しきれないのがとても残念!)
それをYさんはどうしてもコートの裏地として仕立てたいのです。
(当初はこれをスーツの裏地と仰っていたのですが、ファーストオーダーですし私が制止いたしました。)
聞けば・・・
Yさん HPで見た龍虎裏地、俺から言わせれば、あんなのダメだ! どうせやるなら、限界を超えたようなのではなくては!
(アレでも私必死だったのに・・・)
Yさん、でもこれで仕立てると堅くて身動きとれなくなりますよ。
Yさん 良いんだよ。服は人に見せる物だから
全然目立たない真っ黒のコートで、裏地を見せたら金銀の龍が出てくるなんて凄くない?ホテルのクロークで係りの人が飛び上がるの見たくない?! そうだ!! 表側も襟の部分だけ、この生地を使って、襟が上り龍になっているなんて良くないか?
すみません、、、 昇り龍は私の実力を遙かに越えています×××
Yさん でも、やればできるんならやってよ!
分かりました。昇り龍は無理ですが、裏地の方は着心地の悪化をご了承頂けるのでしたらやってみます。
お客様を実験台にするのは良くありませんが、Yさんもそう仰っていることですし...
Yさん よしよし、着心地なんて小さいこと言わないから俺...

補足:ちなみにこの接客、接客上手の梅本君も同席していましたが、終始言葉少なでした。。。(^_^;)
うん! 原稿を書いていてもこんな楽しい話題ですとアッという間に筆が進みますね...

そしてご注文内容はこんな感じ。

■ Yさんのご注文内容 ■
生地
伊ロロピアーナ カシミヤ100%コート地
基本
デザイン
チェスターフィールドコート
前立て
ダブルブレスト
胸ポケット
なし
腰ポケット
ハッキング
その他
見返しがウェーブするように
>>> こちらは紙面の関係で今回は説明を割愛しますが、出来上がり乞うご期待
・くるみボタン これはYさんの昔からのこだわりだそうで、、、
持ち込み裏地!!
外見を言葉や文字にするとシンプルなんですけどね、、、この裏地どうしたもんでしょう?
でも、自分達の仕立てでキチンとした物を提供するなら最低限の着心地は確保しなくては仕立屋の恥と思い、こんなご提案をいたしました。

提案1:袖裏は普通のものを
>>> 袖は基本的には見えない部分ですから良いだろうということで、ここは通常のキュプラ裏地をオススメし、これは了承してもらいました。
袖裏に金糸銀糸裏地だと滑りも悪いですし、袖がロボットみたいになってしまいそうですからね。。。

提案2:背裏の上1/3は持ち込み生地を使わず、裏地を張ること。
>>> ご注文はコートでしたから、胸から下は直接肌に触れませんのでアノ堅〜い生地でも大丈夫かな?とは思ったのですが、どうしても問題になりそうなのが、胸から上の裏地部分。
ここがゴワゴワの生地ですとどうしても表地に響いてしまいますし、あまりにも着心地が悪くなりますので、ここはYさんに妥協していただき、見返しのお台場部分から上は普通の裏地、お台場部分から下は龍虎裏地で仕立てることにしました。
胸から下でしたら、それほど着心地に悪影響ないですからね(ホントかな?)

どんなものでしょうか?こんなオーダーコート。
生地の方はあのロロピアーナのピュアカシミヤ!!
これだけでも正規店なら40万はするようなグレードの素材ですよ。
それがこの裏地で・・・

そして仮縫いシーンを少しご紹介。
■ 仮縫いは・・・ ■
仮縫いは、年始フルオーダー第1号として1/9に仮縫いを行いました。

画像をご覧いただいて、いかがでしょうか?
仮縫い段階では裏地は張っていませんから、ごくごく普通のコートとして仮縫い...ですね。
ちょっとだけ相談したことは、やはり素材感故に裏がゴワつきますから、ゆとりはちょっと多目にと言うことでした。
  が!、しか〜し!!
Yさんのリクエストはこんな平凡には終わりません。
追加でこんなご要望を頂きました。笑えるような本当の話です。

それは、コート丈をどれ位にしますか?という話をしていた時のこと。
Yさん、コート丈どうします?
Yさん そうだな、、、(話は違うけど)俺、ズボンの裾口は必ず30cmなんだよね。 筆者注:通常は22.5〜23.0cmぐらいです。
それでさ、吉村さん、黄金比って知ってる?
あのモナリザの絵とか、ダビンチの絵のあれですか?
Yさん そうそう、数学的には1.618034・・・なんだけどね、
(先が読めない)
Yさん それをコート丈と裾の寸法に反映させたい訳だ!
???(ちんぷんかんぷん)
Yさん 説明するとだな・・・(以下省略)
つまり、裾口30.0cmを1として、地面からのコート丈の距離を黄金比率1.618034で割ると、18.5cmぐらいになるから、それでコート丈を床から18.5cmにして欲しいとのことでした。
画像はまさにそれをフィッター中島さんが、床から測っているところ。
これには、私も 絶句
そのアイデアというか、なんというかオーダースーツもとうとうモナリザの世界まで来るか〜? ....という感じでした。

よくよく考えると、裾幅30.0cmと言っても平面で測った数値ですから筒状の裾口にはそのままでは通用しないと思うのですが、それにしてもオーダースーツのこだわりって面白いところにあるもんだ!と改めて感じ入ったご注文でした。

それでは次回は出来上がりのご紹介です。
う〜ん、、、内側だけ常人にはちょっと想像?創造?できないようなオーダーコートになると思います。
読者の皆さん、楽しみにしていて下さい。

□ おまけ・・・ □
冒頭で「殿中でござる!」仕様のご注文についてご紹介しましたが、実は仮縫い時に、そちらのオーダーも受けてしまいました!

こちらは改めて紹介したいと思いますが、画像はその時のYさんと、ご相談を受けた三久 イ君の写真。
裃(かみしも)なんて縫ったことありませんから、想像も付かないので、型紙用の紙をちょきちょき切って裃のイメージを作って確認いたしました。
イメージとしては遠山の金さんの裃とサスペンダーの中間的イメージです。
(機能としてはサスペンダーです。)

そして、イ君の写真はこちら。
あまりに予想外のことが多く、ひぃひぃ言いながら仕様書を作成している様子がお分かり頂けますでしょうか?
もちろん私も必死です。
年始早々、話題が尽きない当社ですね。(^^;)

いやいや、ホントこんなことをするお店なんて他にないでしょう。

ということで、今年もどうぞ宜しくお願いします。