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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 ヨシムラ版ニットジャケット
 9月になり厳しい残暑が続きますが、それでも夕方などは陽が落ちるのが少しずつ早くなり秋を感じさせるようになりました。読者の皆さんお元気でしょうか?

まだまだ暑いからジャケットなんて着ないよ...という方も多いと思いますが、ちょっとデパートへ涼みに行ってみて下さい。
小売店では夏物はとっくに終わりを告げ、もうすっかり秋の色合いです。
そんな季節を先取りするファッション業界ですが、この秋のトレンドは何でしょうか?
皆さんも興味のあるところですよね。
  今年のトレンドは... ズバリ! カジュアル化路線。  
あまりこれを訴求してしまうとスーツ屋としては売れなくなってしまうのですが、ファッションは大きな流れで見極めなければなりませんから、きちんと説明をいたしますと、、、
根拠としては2つあります。

1つは、世界的な流れ
 それは...メンズファッションは今はイタリアのピッティウォモという展示会で大きな流れが決まりますが、その展示会では今年はジャケットが大注目。
特に千鳥格子などが人気で、従来のスーツは影を潜めています。
こういった世界的流れはゆっくりと着実に日本にも到来しますから、やはりジャケットが要注目。

もう一つは、個別アイテムとしてニット素材人気が急上昇
 これは昨冬辺りからですが、伊ボリオリ社のドーヴァーがニットジャケット(ジャージージャケット)を発表してから火がついたのですが、今までにない着心地、素材感が評価され今年はアパレル各社がこぞって採り上げる一大人気商品に。(ボリオリは今期は新商品“ワイト”を発表、こちらも注目されています。)

このニットジャケットは安い物は3万円位からボリオリなどは13万円まで各社色々と発表しており、今シーズン要注目のアイテムです。

そこで、当社もハンドメイド工場である三久服装と力を合わせてこのカジュアル化路線で何かできないか!?と考え、旬なニットジャケットを開発しよう!ということになりました。
もちろん登場するのはMD玉岡氏と吉井工場長(+若手イ君)の黄金トリオ?です。

■ まず初めに、、、ニットJKT ジャージーJKTって? ■
 皆さんニットはご存知ですよね〜。
通常のスーツ地(ジャケット地)と比べて何が違うと思います?
えっ?伸びること? ・・・そうですよね、でもそれだけではありません。

ニットというのは、スーツ地が縦糸横糸が交差する織物であるのに対し、一本の糸を編んだ編み物なのです。
そんなの分かっているよ!と言われるかも知れませんが、実はこれは縫製する側にとっては大問題なんです。

それは、以前、Webでご紹介したしましたが、スーツは仕立てる際にアイロンワークで平面の生地を立体的にします。
それは縦糸横糸が90度で正方形に交差する物を平行四辺形に変えることで立体感を作り出すのですが、これが出来ないということなのです!!
それ故、ニットを縫うと言うことは真面目に取り組めば組むほど大変な仕事なのです。
    >>>ご参考:生地を立体的にすること(三久服装)

ですから、この話を三久服装(ハンドメイド工場)に持ち込んだ時、工場長は思いっきりフリーズしていました。
また、ニット(ジャケット)にはこんな特徴もあります。

・素材によって伸び率が変わる
>>> 当たり前ですがニットの場合は場合によっては数%〜10%以上近く伸びますので、事前の物性検査や対策が大変です。

・伸びたら縮む
>>> これも当たり前といえば当たり前ですが、ニットは洗えば縮みます。

出来た製品も一度袖を通してしまえば僅かであってもサイズが変わる。
サイズ企画という物があってないような物、それがニットなのです。
それ故、これまではどこもクレームが怖くて、なかなか積極的にやらなかったアイテムなのです。

■ そこで、三久版ニットジャケットはこんな企画で。 ■
 そんなリスキーなニットジャケットですが、何事もやってみなければ分からない!ということで、当社では6月頃から試作を重ねていました。
どんなことをしたか、順を追ってお話ししますと。。。

□ まずは素材決めから。 □

 前述の通りニットは製品によって伸び率が変わるため、素材を限定しないとサイズが決まりません。
そこで当店では伊ゼニアのグループ企業であるアニオナ社のニットを使うことにしました。

何故この素材を使うことにしたかというと、安物の製品では良くあるのですがニットはニットですが素材がカチカチのニット、つまりそれほど伸びずに着心地が悪いニットが意外と多いんです。
(つまり流行のニットにあやかりたい、さりとて伸びるニットは縫いにくいからNGということで、堅いニットをチョイスという訳なんです。)

それでは高品質素材を取り扱う当社らしくない!
ということで、ゼニア、ロロピアーナクラスの生地を!と考えチョイスしたのがこのアニオナ。

ウール100%で肌触りも良く、レディースほどぐにょぐにょ伸びませんが、これならボリオリにも負けない、十分ストレッチ性を感じることが出来る、そんな素材です。

□ 続いて、パターン作成 □

 消費者の方はあまりお分かりになられませんが、実はスーツやジャケットではパターンを作るのが大仕事です。
通常スーツはある一定の範囲で決まりますから5〜6種あれば大丈夫なのですが、こういった異素材ジャケットなどは流行もあって、1から作り直さないとダメなのです×××

ですが、実は良い物がありました!!
それは、今夏三久で作成した芯なし一枚仕立てジャケットのパターン
  ご参考:三久新企画:一枚仕立てジャケット

こちらはタイトフィットで、軽い仕上がり、外見的なトレンドも押さえていますからこれならOK
...ということで、こちらをベースにすることに。

でも、問題は。。。
そう、問題は、パターンのサイジング
通常、バスト○○cmだったら、ゆとり量は○cmだから仕上がり寸法は○○cmだから、、、と
ある程度の枠内で決まることなのですが、ニットジャケットは伸びるのが身上。
伸びるということは当初はタイトでなければなりません。
では、どれぐらい絞る? これを決めるのが悩みの種でした。

そこで、まずは試作品を作ることに。
試作品では、素材が縦伸びより横伸びする生地だったため、縦方向はそのままに、横方向のみ1サイズダウンして作成することに致しました。
さてさて、どんな仕上がりになったのでしょうか?

■ 試作品1号 ■
 こうして企画から1月半7月半ばに仕上がったのがこちらのニットジャケット。
試作品は全て私のサイズが基準です。
基本デザイン:2つボタン
胸ポケット :切りポケット
腰ポケット :フタ付きアウトポケット
 袖ボタン :4つボタン
ステッチ  :ミシンステッチ7mm
肩パッド  :一番薄いパッド
裏仕立て  :総裏(ニットジャケットにお台場は不必要) 
イメージ  :ON・OFF兼用になるようなジャケット。
       ボトムはグレイパンツでもジーンズでもOK♪
というイメージです。
そして仕上がった試作品がこちら...
いかがでしょうか?
ボディーに着せている分にはイイ感じに仕上がっていますが、実際着用すると昔の寸胴なトラッドジャケットみたいですね。

そうなんです。
↑着用画像は、何回か試着をした後、撮影用に撮った物ですので、この時点でもう少し伸びてしまっているのです。
つまり、最初はタイトな仕上がりでいい感じ♪、、、 と思っていたのですが着ている内に伸びてしまって写真を撮る頃には、結構寸胴×××となってしまったのです。

これではダメですね、、、
やはりスーツもジャケットも着ていく内に身体にあって良くなっていく物でなくては。

ということで、最初は多少きつくても暫く着て心地よくなるサイズはどんな物だろう?ということを研究することにしました。

□ 研究は・・・? □

 研究は色々やってみました。

1つは伸び率の計算
スーツは仕立てる時に当然アイロンを使いますが、そのプレスですらニットは伸びてしまうのです。
そこで、当初の型紙のサイズ、仕上がりのサイズ、着用後のサイズを図ってみました。
それがこの表です。
型紙
仕上がり
着用後
肩幅
45.0
48.5
49.0   8%伸びる
ウエスト
95.0
103.0
103.0  8%伸びる
上着丈
72.5
72.5
72.5  縦には伸びない
袖丈
60.0
60.0
60.5  縦には伸びない
ご覧になっていかがですか?
え〜っ?!こんなに伸びるの?と思われたのではないでしょうか?

研究の結果、この素材は縦のびはそれほどしませんが、横方向には平均8%程度まで伸びることが判明しました。

2つ目芯地の研究
通常ハンドメイドの仕立てでは芯地は接着芯は使わず、毛芯を使います。
しかしながら、ニットジャケットは生地に腰がないためある程度接着芯で腰を作ってあげないとダラダラ伸びてしまうことがあります。
そこで、今回は三久服装としては初めて接着芯を使ってみました。

でもあまり強烈な接着芯は使いたくない!ということで婦人物の薄手の接着芯2種を選びそれぞれ試作してみました。
すると、、、婦人物の接着芯の中で中厚ぐらいの物が物性的に安定し一番良い事が分かりました。

■ 試作品2号 ■
 こうして1号の反省を生かして今度は試作品2号の作成です。
次の所を変えてみました。

サイズは縦方向は1サイズダウン、横方向は2サイズダウン
接着芯は中厚
肩パッドは一番薄い物から中綿を抜き、更に薄く
生地は同じくアニオナで色違いの黒。


こうして仕上がった試作品2号がこちら。
いかがでしょうか?
先程の画像と比べると、コンパクトになってグッと引き締まった印象です。
また、背中を伸ばしてみても、ニットらしくなかなか良い感じにストレッチしていますね。
  う〜ん、気持ちイイ!

これならMEN'S EX10月号に登場していたBOGLIOLI(ボリオリ)以外のニットジャケット提供各社(BELVEST、EDIFICE、CARUSO、RING JACKET等々)にも負けないイイ感じのジャケットが出来上がりました。

■ コーディネートはこんな感じに・・・ ■
 さて
こんなニットジャケットですが、皆さんビジネスで使うにはちょっと抵抗のある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
確かに、お役所とかお堅い金融機関にお勤めの方などでしたら多少なりとも抵抗あるのかもしれません。

でも、こんなコーディネートでしたらとても真面目な好印象になりますよ。

ネイビーなら・・・
>>> ベーシックなネイビーはグレイパンツが一番ベーシック。
 特に、フラノ調の少し起毛した素材ならニットの柔らかい雰囲気とマッチしてGoodです。  シューズは茶系のシューズ。スエードなどがベストマッチですね。

黒なら・・・
>>> 試作品2号がこちらの黒でしたが、自分で仕立てて良く分かったのですが、コレが私の一番おすすめカラー。
 真面目な黒ジャケットに、ボトムはグレイヘリンボーン
 シューズは着靴に合わせず、黒のウイングチップ(ストレートチップでないところがちょっと外し)
 もちろんベルトは黒です。
 凄〜く、真面目でお洒落なコーディネートに仕上がります!!
※:仕立てたイ君にも登場して貰いました。


■ 気になるお値段 ■
 さてさて、一番気になるのはお値段の所かも知れませんね。
こちらのニットジャケットは素材特性から考えて、仮縫いを入れる必要はありません(伸びてサイズが変わりますからね、、、)
ですからその分お値段が安くできるのが最大のメリットです。

素材は...アニオナ(ゼニア社)のニットを使って
色目は...ネイビー、黒、ブラウン、グレイ、ワインなど全7色
 :生地はサンプル帳には掲載しておりませんが東京大阪各店にて現物サンプルを展示しております。

 ずばり・・・
     ジャケット単品 70,000円(税込)です。

基本的な作業工程(手裁断、手穴かがり、ハンドメイドetc)は変わりませんので、ハンドメイドジャケットとしてはかなりお安くできたのではないかと思います。
このニットジャケット、ビジネスに、カジュアルに使い勝手が良いですから是非一度お試し下さい。

■ おま け 〜ここまでやるか?〜 ■
 今回の開発に当たっての裏話を1つ。。。
それは、試作品1号が届けられたその日のこと。

玉岡:社長、試作品が出来ましたよ。着てみてください。
 :イイ感じですね。。。でも、結構伸びるね〜
玉岡:そうなんスよ。仕上がり段階でも肩で○cm伸びていて、、、
これじゃサイズを指定してもその通りに上がらずクレームの元になりそうです。ですから試着の後、もう一度測らせてください。
 :うん。じゃぁ、脱ぐから測って。
玉岡:え〜っ!?またまた○cmも伸びてますよ。どうしよう。
 :でも、玉岡さん、着て伸びるって事は洗ったら縮むのかな?
玉岡:?。。。そうでしょうね、、、
 :そうだよね。。。じゃぁ、水洗いしますか?

〜 そして、洗面所へ 〜
 :洗っちゃった!(正確には浸しただけ)1日干して三久でプレスして貰おう。
工場長、怒るかな?

〜 翌 日 〜
吉井:社長!何ですかこれは...折角綺麗にプレスして納めたのに!!
 私:吉井さんゴメンナサイ。でもやらないと分からないから。

〜 3日後 〜
玉岡:社長!プレスし直したらまたサイズが変わりましたよ!元に戻りました
 :あぁ〜やっぱり。じゃぁ、元のサイズに戻るのだから、やはり少しタイトにして良さそうだね。

新しいことをするのは色んなエネルギーが必要です。
でも、色んな事にチャレンジしてようやく新商品って出来るんですよね...