2025年6月13日更新
こんにちは、大阪店の西脇です。 梅雨の真只中ですが、いかがお過ごしでしょうか。湿度を含んだ重たい空気、雨の日でも、紫陽花を見るとその美しさに心打たれます。 今回は、梅雨の時期の憂鬱な気分を払拭してくれるような、美しいサマージャケットとスラックスをお仕立ていただきましたF様のお仕上がり品をご紹介していきます。 先日、京都に行きました際、様々な種類の紫陽花が咲いていました。紫陽花を見たときに、自然とF様のサマージャケットが思い出され、改めてオーダーについて感じたことがありました。 今回のレディースコラムは、ゆったりと、紫陽花のお写真と一緒にお楽しみいただけますと幸いです。
ジャケットには、Loro pianaのSUMMER TIMEというシリーズからまさに紫陽花の花の色のような生地をお選びいただきました。 紫陽花の花の色の青からピンク、紫、白といった微妙な色合いの変化は、土壌のpHによって決まることはよく知られています。オーダーにおいては、同じ生地でも着る人や細部のデザインによって大きく印象が変わる点が、自然の紫陽花と通じるところを感じます。 この生地は無地でありながら、ウール、リネン、シルク混合の生地で、色彩に奥行きと清涼感を感じることができます。そしてシルクが20%混合されていることから、繊細な光沢感があり、ジャケットとして仕立てあがった時に特に柔らかな光を放ちます。
スラックスには機能性素材Metropolysのネイビー無地をお選びいただきました。これからの季節、涼しくて洗えるスラックスは大変便利です。こちらのMetropolysはポリエステル100%ですが、ウールトロピカル(天然素材)に見間違うような生地感です。
季節感を纏う、準備をするということは、自分自身の愉しみになるというだけではありません。相手に対して礼を尽くす心意気につながります。
紫陽花の花が一つ一つの小さな花から成り立っているように、オーダーも様々な要素が組み合わさって完成します。シルエットやラペルの形、ボタンの数や配置、裏地など、各パーツが絶妙に組み合わさることで、完成度の高い一着が生まれます。 F様にはいままでたくさんのオーダーをいただいております。サイズ感を微調整するだけでなく、生地や季節、着るシーンを具体的にイメージしながら、着丈、衿幅や釦位置、ポケット位置などをいつも少しずつ変えています。 ご体型はお変わりなくても、ディティールを少し変えるだけで印象は大きく変わるのです。
それでは、今回のディティールの一部をご紹介させていただきます。
ラペルの形は下の方が花びらのように柔らかな曲線を描くラペルタイプ(直線的なラペルもあります)で、衿幅はふっくらとしたやわらかさを出すように通常のパターンの幅よりも5mm太くしました。
釦は茶蝶貝を使用。清涼感、高級感があり、生地ととても相性がよいです。レディースの既製品ではあまり見ませんが、袖釦は重ねて4つつけ、本切羽(釦が実際に開けられる本格仕様)にしました。 また、前釦の位置は通常のパターンよりも少し下げてVゾーンを広く見せています。こうすることで、視覚的に抜け感が出る効果があるだけでなく、少しタイト目のシルエットの場合でもバストの収まりがよくなります。
腰ポケットは裾からの距離を指定しています。通常のパターンより、少し下についています。こちらは前釦の位置を少し下に下げたため、バランスを見て設定しました。
ポリエステルと比べて通気性がよい、キュプラ裏地をお選びいただきました。表地の色(パープル)を拾ったストライプ柄です。
F様は普段ベルトをあまりされない、とのことでした。お仕事用のスーツは、アクセントとしてベルトをされることもあるようですが、今回はリラックス感を出すためにベルトレスにしました。もちろん、ウエストもお体にフィットさせてお仕立てしますので、ベルトがなくても綺麗にお召いただけます。
スラックスは、今回は”涼しく楽に” ということで、セミワイドのシルエットをお選びいただきました。今回お選びいただきました生地自体、とても軽く薄いのですが、スラックスはある程度ゆとりがある方が涼しく感じます。ただ、お仕事やプライベート、様々なシーンでお使いになるとのことで、リラックス感はありながら、ワイドになりすぎないようなシルエットで調整いたしました。 テーパードシルエットの時よりも股下の長さを少し長めに設定しています。
今回のディティール、その他の仕様も含めて簡単にまとめると下記のようになります。
お仕立て上がって数週間後、F様より、「サマージャケットは明るいお色目でしたが、思ったよりも色々なボトムと合わせやすい」というご感想もいただきました。 オーダーであればボトムとのバランスがとりやすいように着丈も設定できます。また、着心地は生地によるだけではありません。お身体に合ったジャケットは特に着心地がよく感じます。
今回のF様の仕様、ディティールのご紹介が、少しでも今後のオーダーのご参考になれば幸いです。 タイパ、コスパという言葉をよく耳にする昨今ですが、敢えて時間をかけること、効率だけを考えるのではなく、季節感や個性、美しさを大切にするオーダーの良さを改めて感じさせて頂けるF様のお仕上り品でした。
6月の梅雨時期、自分だけのオーダーをじっくりと時間をかけて選んでいくひとときは贅沢ですね。 改めまして、F様、今回はコラムの掲載にご協力いただき、誠にありがとうございました。 それでは、今回のレディースコラムはこの辺で失礼します。次回もお楽しみに。